系統用蓄電池 ~エネルギーの未来を支える革新的な技術~
再生可能エネルギーの電力供給体制が整備される中で、電力会社が直面する「出力制御」という課題が浮き彫りになっています。この問題の解決策として、最近では「系統用蓄電池」が大きな注目を集めています。
本記事では、蓄電池の基本機能に焦点を当てながら、特に「系統用蓄電池」について詳しく解説していきます。
蓄電池の機能
蓄電池は、エネルギーを保存する貯蔵庫です。家庭や施設が電力を必要とするとき、電力会社はその需要に応じて電力を供給します。しかし、時折、需要と供給が一致しないことがあります。再生可能エネルギー源である太陽光や風力が発電するときや、電力需要が急増するときなど、余剰電力を効率的に保存するためのシステムが求められます。その役割を果たすのが蓄電池です。
蓄電池の種類
蓄電池は、その使用目的や規模によっていくつかの種類に分けられます。大別すると、以下になります。
- 家庭用蓄電池
「家庭用蓄電池」は、一般家庭で使用される小規模な蓄電池で、停電時には非常用電源としても利用できます。家庭用蓄電池は、私たちの生活をより快適で安全なものにしてくれます。鉛蓄電池やリチウムイオン電池やなどが家庭用蓄電池としてあります。
- 産業用蓄電池
「産業用蓄電池」は、大規模な工場やビルなどの施設で利用される、容量の大きな蓄電池です。電力需要のピークを制御したり、エネルギーの使用時間帯を変えたりすることで、エネルギーの効率化やコスト削減を実現するために活用されます。産業用蓄電池は、ビジネス現場において非常に重要な役割を果たしています。
- 系統用蓄電池
「系統用蓄電池」は、電力供給網(通称:系統)に直結するエネルギー貯蔵装置で、電力価格が低い時間帯に電力を取り込み、価格が上昇した際に放電して電力を供給することで、その価格差による利益を実現します。この系統用蓄電池は、エネルギー消費の効率化という観点から見ると、電力需要と供給のバランスを最適化し、電力の使用をより経済的にする可能性を秘めています。
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電力会社による出力制御
電力会社が行う「出力制御」は、さまざまな状況や目的によって実施されます。その概要は次の通りです。
出力制御の状況と影響
出力制御とは、電力会社が電力供給と需要のバランスを保つために行う措置です。具体的には、電力供給が需要を上回るとき、つまり電力が余剰になるときに、発電所の出力を抑えることを指します。
2023年度上半期、大手電力会社は再生可能エネルギー事業者に対し一時的な発電停止を求める出力制御を194回実施しました。これは前年同期比で約3.1倍に上り、過去最多を更新しました。全国の大手電力会社の出力制御量も、2022年度と比較して2023年度は約3倍に大幅増加する見通しです。
再生可能エネルギーの導入拡大とともに、需給バランス制約による再エネの出力制御が全国に拡大しています。これは、電力の需給バランスを維持するための重要な措置であり、再エネの導入拡大とともにその重要性が増しています。
しかし、この制御は同時に電力を売れない時期を発生させます。その結果、余剰電力が捨てられるという事態を招いています。その解決策として、既存系統を効率的に活用し、平常時における系統混雑時の出力制御を条件に新規接続を許容するノンファーム型接続が開始され、直接系統に結合する「系統用蓄電池」の導入が強化されています。
系統用蓄電池のメリット
系統用蓄電池は、電力系統へ需給調整力を提供できる今後の脱炭素社会に不可欠な存在であり、色々な面においてメリットが多いです。主なものとしては以下が挙げられます。
- 再エネルギーの導入サポート:
再生可能エネルギー(再エネ)の出力は天候などにより変動します。系統用蓄電池は、電力が余ったときに蓄電し、電力が不足したときに放電することで、電力供給の安定化を図ることができます。
- 投資メリット:
電力市場では、電気料金単価は日時によって変動します。系統用蓄電池を活用すれば、価格が安いときに電気を購入し蓄電しておき、価格が高くなったら放電して売電することで、その差額で利益を得ることができます。
- ピークカット:
電力需要が高い時間帯には、蓄電池に貯めた電気を使用することで、ピークカット(電力使用量のピークを削減すること)を行い、電気料金を削減することができます。
- 非常用電源:
災害時などの停電に対する非常用電源として活用することができます。
以上のような理由から、系統用蓄電池は期待されています。ただし、大型の蓄電池の導入費用は高いというデメリットもありますが、近年では蓄電池の価格も下がってきており、また補助金制度も充実してきているので、解消されつつあります。
系統用蓄電池の動向
電気事業法の改正
2022年5月には、電気事業法の改正が行われ、10MW以上の系統用蓄電池は発電所として扱われることが決まりました。また、富士経済の調査によると、2023年の系統用蓄電池の市場は、金額ベースで2022年比47.3%増の3兆4191億円、容量ベースで42.7%増の109.7GWhの見込みとなっています。
官民連携によるに専用ファンドの設立
伊藤忠商事と東京都が共同で、日本初の系統用蓄電池専業ファンドを設立しました。このファンドは、再生可能エネルギーの開発が活発化する中、発電量が大きく変動する再エネ電源に対する需給調整機能の必要性が増大しています。
また、東京都は、2023年度内に20億円の資金を拠出し、伊藤忠商事を含む民間企業からの出資も募り、系統用蓄電池への投資を進めます。
このように、伊藤忠商事と東京都が共同で設立したこのファンドは、再エネの普及と脱炭素社会の実現に向けた重要な一歩となります。
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系統用蓄電池の導入状況
「系統用蓄電池」の導入に対する取り組みは、拡大しつつあります。以下にいくつかの事例を紹介します。
- パシフィコ・エナジーの蓄電所:
パシフィコ・エナジーは、国内初と見られる「系統用蓄電池」利用を目的に設置し、商用ベースで運転を開始したプロジェクトを実施しています。また、リユース蓄電池の実証事業終了後の設備を、2022年8月に系統用蓄電池として稼働した「大牟田蓄電所」(出力1MW、容量3MWh)も存在します。
- 隠岐諸島のハイブリッド蓄電池システム:
島根県の隠岐諸島には、出力6.2MW、容量25.9MWhの大型蓄電池を島内の変電所内に設置し、電力系統に直接連系して運用する系統用蓄電池が稼働しています。出典:https://www.energia.co.jp/nw / https://www.energia.co.jp/nw
- 豊前蓄電池変電所:
2015年に福岡県豊前市に設置された「豊前蓄電池変電所」は、出力5万kW・容量30万kWh相当のNAS電池を使用しています。九州電力は、このNAS電池を使った実証実験を、2016年4月から2017年2月にかけて行いました。
これらの事例は、系統用蓄電池の導入と活用が進んでいることを示しています。これらの蓄電池は、再エネの導入拡大に不可欠な調整力の確保や、需要が少なく供給が余剰となる場合の再エネの活用に有効であり、その円滑な導入を促進することが重要であると言えます。
まとめ
系統用蓄電池は、持続可能なエネルギー社会の実現に向けた鍵を握っています。その進化と導入は、環境への貢献だけでなく、エネルギー分野全体の効率性向上にも大きく寄与するでしょう。持続可能な未来を築くための重要な要素として、系統用蓄電池の役割はますます大きくなっています。
出典一覧:
経済産業省 資源エネルギー庁:
https://www.enecho.meti.go.jp
https://www.enecho.meti.go.jp
https://www.meti.go.jp/shingikai
https://www.meti.go.jp/shingikai
日経BP:
https://project.nikkeibp.co.jp/ms
https://project.nikkeibp.co.jp/ms
https://project.nikkeibp.co.jp/ms
https://project.nikkeibp.co.jp/ms
https://project.nikkeibp.co.jp/ms
https://project.nikkeibp.co.jp/ms
https://project.nikkeibp.co.jp/ms
伊藤忠商事:
https://www.itochu.co.jp
日本経済新聞:
https://www.nikkei.com