アンモニア発電って?注目されている背景やメリットについて解説

独特な刺激臭が特徴のアンモニア。昔からさまざまな用途で利用されていますが、近年ではアンモニアを使った発電方法がクリーンであると考えられ、注目されています。この記事ではアンモニアの特徴や、発電のメリット・デメリット、発電方法について、分かりやすく解説いたします。

アンモニア発電って?

アンモニア発電がどのようなものなのかを説明する前に、まずはアンモニアの特徴についておさらいしてみましょう。

アンモニアについて知ろう

理科や化学の授業で、アンモニアを用いた実験を行ったことがある方も多いのではないでしょうか。私たちの便に含まれることでも有名ですね。

アンモニアは、独特な刺激臭を持つ無機化合物。通常は無色の気体で、水溶性があります。また、私たち生物に対して神経毒性があるため、わずかな量で生命に影響を及ぼす「劇物」とされ、取り扱いには細心の注意が必要です。

アンモニアを用いた製品は身の回りに多く、衣料品に使われる「ナイロン」やアクリル繊維の主原料である「アクリロニトリル」等は、ご存じの方も多いのではないでしょうか。また、昔から肥料としても広く利用されています。

 

そして新しい用途として注目されているのが、発電時に燃料として利用する「アンモニア発電」です。

発電方法は?

2022年度の年間発電量のうち火力発電は72.4%※。火力発電では、石炭や天然ガスを燃料として用いていますが、アンモニア発電は、化石燃料の代わりにアンモニアを燃料として用いる発電方法です。再生可能エネルギーとして注目されており、環境への影響が低く、持続可能なエネルギー供給を目指す上で、重要な技術として見なされています。

(※引用:環境エネルギー政策研究所

 

発電の仕組みとしては、アンモニアをガス化して、そのガスを燃焼させることで高温の燃焼ガスを得ます。これを使って、蒸気タービンを回し、発電機を駆動します。発電機が回転することで電力が生成されるのです。

 

また、「燃料電池」として活用するための研究も進められています。

燃料電池とは、水素と酸素を化学反応させて電気を発生させる装置。家庭用燃料電池として「エネファーム」が実用化されています。

通常は「水素」と「酸素」を用いていますが、「水素」の代わりに「アンモニア」を用いた燃料電池の開発が進められています。

メリット・デメリットは?

アンモニア発電には、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。

メリット

・二酸化炭素(CO2)の削減が期待できる

アンモニアは化石燃料と異なり、燃やしてもCO2を排出しません。アンモニア発電が注目されている一番の理由はこの「カーボンフリー」である点ではないでしょうか。

地球温暖化の対策のひとつとして、世界各国がCO2の削減に取り組んでおり、日本でも積極的にCO2の削減対策が行われています。

仮に、石炭火力発電に20%のアンモニアを混焼することができると、約4000万トンのCO2の削減が可能だと考えられています。また、アンモニアだけを燃料として使う「専焼」も可能になれば、約2億トンのCO2が削減できると言われています。

日本のCO2排出量は約12億トンとされているため、莫大なCO2が削減できるのです。(資源エネルギー庁試算)

 

・調達・運搬のコストが安い

アンモニアは液体で輸送・保管が可能です。そのため、液化・ガス化に必要なエネルギーコストが水素に比べて安く済むのです。

水素は気体のため、液化するためには非常に低い温度と高い圧力が必要です。そのため液化・輸送にかかるエネルギーコストが高く、輸送インフラの整備も課題となります。

先述したアンモニアの燃料電池の研究はコストの大幅な削減のために進められているのです。

更に、専焼による発電コストを見た場合でも

・水素・・・1kWhあたり97.3円(2020年時点試算)

・アンモニア・・・23.5円(2018年度時点試算)

と、大きく下回っているのです。

 

・既に生産~貯蔵までの方法が確立されている

昔から肥料として馴染みがあるアンモニア。生産、運搬、貯蔵までの技術が確立されています。そのため水素と異なり、インフラを整備する必要がありません。

さらに液体のまま長期間にわたって貯蔵が可能な点も大きなメリットです。再生可能エネルギーの発電が風力や太陽などの自然環境に依存してしまうものが多い中で、需要と供給のバランスを調整しやすいことは利点です。アンモニアはエネルギーを高密度かつ長期間にわたって貯蔵できるため、需要のピーク時にも安定した電力供給が可能であると考えられています。

デメリット

・発電時に窒素酸化物の排出がある

アンモニアを燃焼すると、窒素酸化物(NOx)の排出があります。窒素酸化物は酸性雨の原因の一つと言われており、対策が必須になります。

 

・安全面の懸念

先述した通り「劇物」に指定されているアンモニア。取り扱いには十分な安全性対策が必要です。特に大規模なアンモニア発電所やアンモニアの輸送・貯蔵施設では、事故が起きた場合の影響が非常に大きくなると考えられます。

 

・生産量の不足

現在の石炭火力発電をアンモニア発電(専焼)に切り替えた場合、アンモニア国内生産量がすぐに不足すると考えられています。現在は内需のうち8割を国内生産していますが、アンモニア発電が広まると需要と供給のバランスが大きく崩れてしまいます。

また、アンモニアはすでに世界中で多くの用途で使用されており、輸入を増やすこともコストがかかってしまうため、安定供給のために生産量の増量は確実に必要となります。

 

・製造時にはCO2が発生する

主なアンモニアの製造方法は、窒素と水素を触媒として用いて高温高圧下で反応させる「ハーバー・ボッシュ法」です。その際にCO2の発生が避けられないことは大きなデメリットと言えるでしょう。

実用化に向けた課題

デメリットと重なる部分もありますが、アンモニア発電の実現にはどのような課題があるのかを紹介します。

 

・大規模発電施設の研究

実験レベルでは十分な発電量が得られていますが、その際の発電施設は小規模でした。

商業用の大規模での発電はまだできておらず、混焼比率を高め、なるべく多くの電気を発電できるよう日々いろいろな研究が進められています。

 

・アンモニアの確保

デメリットでも述べたように、アンモニアの不足が懸念されています。実用化に向け、調達先の分散化や調達量のコントロールが重要になります。

 

・環境への影響の低減

アンモニアを燃焼させる際には窒素酸化物(NOx)等の排出物が発生します。これらの物質は大気汚染の原因となってしまいます。排出物の処理技術の開発や、環境への影響を最小限に抑えるための対策が必要です。

 

このような課題を解決するためには、研究開発や実証プロジェクトの推進、産業界との連携、政策の策定と支援などが非常に重要です。技術の進化や経済的・環境的な要件に応じて、アンモニア発電の実用化が進展していくことが期待されています。

まとめ

今までは、火力・水力・原子力の三種類が主流だった発電方法ですが、近年いろいろな再生可能エネルギーの実用化に伴い、発電技術の開発・研究は進んでいます。

 

アンモニア発電の実用化は少し先になりそうですが、ひとりひとりが、こういったニュースに関心を持ち、地球環境や環境問題について意識を向けることは非常に重要です。

 

地球の未来のために、新しい技術について学んだり、私たちにできる小さいことから取り組んだりしていきましょう。