非化石証書とは。概要とほかの証書との違い

気候変動や環境問題への注目が高まる中で、様々な制度が日々生まれています。その中には環境に優しいという特徴を証明するための制度が日本には複数存在します。非化石証書はそのうちの一つです。今回は非化石証書の概要、他の証書との違い等を解説いたします。

非化石証書とは?

非化石電源(石炭や石油等の化石燃料を使用せずに発電する電源)から発電された電気は、電気としての価値と環境配慮の価値を持っています。そのうち、環境配慮の価値を証書化したものが、非化石証書です。

非化石証書ができた背景は?

非化石証書ができた背景には、エネルギー供給構造高度化法(以下高度化法)の存在があります。高度化法はエネルギーの安定供給と環境負荷の低減といった観点から、エネルギー供給事業者に対して、非化石エネルギー源の利用拡大と化石エネルギー原料の有効利用促進を目的としている法律です。

この法律では特定の小売電気事業者に対して、自ら供給する電気の非化石電源比率を2030年度に44%以上にする事が求められています。そして、この目標の達成を促すために、非化石証書ができたのです。

また、この高度化法以外にも再エネ等の非化石電源への投資の促進や、環境負荷の低い電気の使用を希望する需要家の選択肢拡大も、非化石証書を導入した目的とされています。

非化石証書を入手する方法

では非化石証書はどのように取引されているのでしょうか。非化石証書の取引形態は2種類あります。一つが市場取引、もう一つが相対取引です。(FIT制度に由来する非化石証書は市場取引のみとなっています。)

市場取引

まず市場取引とは、JEPXが管理する非化石価値取引市場で非化石証書を取引することです。市場はオークション形式になっており、非化石証書を持つ発電事業者はこの市場で売入札を行い、非化石証書を購入したい小売電気事業者が買入札を行います。市場取引のメリットは市場に対して適正価格での取引が可能なことです。オークションを採用しているため、需要と供給のバランスにより高く売ることができたり、安く買うことができたりします。

相対取引

一方、発電事業者と小売電気事業者が直接取引するのが相対取引です。この取引形態では市場を通さず、直接売買を行います。そのため、市場に左右されない価格設定が可能です。ほかにも、小売電気事業者としては発電事業者とのサービスによるつながりを得ることができるといったメリットも存在します。

ちなみに、どちらも共通して言えることは、発電事業者から非化石証書を購入できるのが小売電気事業者のみということです。そのため、企業として非化石証書を入手したい場合は、非化石証書付きの電力プランを出している小売電気事業者と電力供給契約を、結ばなければいけません。これは、日本にあるほかの環境価値の証書とは大きな違いの一つになる特徴です。

日本に存在する環境価値の証書

現在日本には非化石証書以外にも、環境価値を有する証書が存在します。それは、Jクレジットとグリーン電力証書です。では、これらの証書と非化石証書は何が違うのでしょうか。まず初めに各証書を簡単に解説します。

Jクレジットとは?

Jクレジットとは、省エネ機器の導入や森林経営などの取り組みで生じる、温室効果ガスの排出削減や吸収量をクレジットとして国が認証する制度です。これらのクレジットは低炭素社会の目標達成やカーボン・オフセットなどに使用することができます。

グリーン電力証書とは?

グリーン電力証書とは、自然エネルギー(風力、太陽光、バイオマス等)により発電された電気の環境価値に対して、第三者機関(一般財団法人日本品質保証機構)の認証を得て、グリーン電力証書発行事業者(日本自然エネルギー株式会社)が発行する証書です。この証書は企業や自治体からグリーン電力証書発行事業者に申し込むことで購入することができます。CO2 の排出削減に使用したり、再生可能エネルギーを使用しているという報告ができたりするようになります。

非化石証書、Jクレジット、グリーン電力証書の違いは?

非化石証書と同じく、環境価値を証明できるJクレジットとグリーン電力証書ですが、実際には何が違うのでしょうか。大きく違う点は以下の通りです。

・転売できるかどうか

Jクレジットはほかの価値(電気やCO2 を削減する方法)と完全に分離されているため、転売が可能です。例えば企業間で証書の移動ができたり、子会社などに共有できたりします。一方、グリーン電力証書と非化石証書は転売することができません、必ず購入者が使用しなければいけない証書になっています。

・再エネ由来の証書かどうか

グリーン電力証書は再生可能エネルギーで作られた電気分の証書が生まれるため、すべて再エネ由来の環境価値です。非化石証書は一部例外がありますが、こちらも再生可能エネルギーで発電した電気分の証書が生まれるため、再エネ由来の環境価値を持っています。一方Jクレジットには再生可能エネルギーによる発電以外にも認証できる方法(省エネや植林等)があるためすべてが再エネ由来の証書ではありません。

・誰が買えるか

Jクレジットとグリーン電力証書はどんな企業、団体であっても直接購入することが可能です。しかし、非化石証書は小売電気事業者のみが購入可能なため、企業や団体は小売電気事業者を通して購入する必要があります。

証書名 転売 再エネ由来 購入
非化石証書 × 〇(例外あり) 小売電気事業者
Jクレジット 企業、団体
グリーン電力証書 × 企業、団体

 

非化石証書は何に使用できるの?

非化石証書は環境価値の有する証書として、温対法だけではなくGHGプロトコルによるCO2 排出量の算定に使用することが可能です。そのため企業であれば、SBT、CDP、トラッキング付きであればRE100等、国際的なイニシアチブに使用でき、世界にも企業の環境配慮をアピールができるようになるのです。

トラッキング付きってなに?

トラッキングとは非化石証書に対して、どこのどんな発電所で発電された電気なのかをわかる情報を付与することです。非化石証書は発電した電気と環境価値を切り離しているため、環境価値以外の情報を持っていません。そのため、どこの発電所で生まれた非化石証書なのかが分からないのです。

この問題に対して、政府主導となりトラッキング付き非化石証書を発行するためのシステムが作られたのです。RE100に使用できることから、トラッキング付き非化石証書の取引数は大幅に伸びました。

以上が非化石証書の解説です。今後、需要と供給がともに伸びるとされているのが非化石証書です。正しい知識をつけて、非化石証書に対する理解を深めましょう。