【すぐにわかる】洋上風力発電とは?
通常の風力発電は、陸地に風車を作って発電しています。しかし洋上(水の上)に風車を作ることで、陸上より安定した風を受けることができるのです。
日本は海に囲まれた島国であることなどから、近年洋上風力発電に注目が集まっているのです。
そんな洋上風力発電について詳しく解説いたします。
風力発電について知ろう
洋上風力発電を説明する前に、陸上の風力発電について説明します。
風力発電は、その名の通り風の力を利用して発電する仕組みです。風車を回して、発電機を動かすことで、発電することができます。
太陽光発電や水力発電などの再生可能エネルギーとして注目を集めています。
1887年に世界初の風力発電が行われたのち、日本でも1949年に運用を始めたという歴史があります。
仕組みは、風の力を用いて「ブレード」と呼ばれる羽根の部分を回転させます。その回転動力が発電機で電気に変換されるのです。台風・強風などの際にブレードが回りすぎないよう「ブレーキ装置」がついているのが特徴。
風の強さは変化するため、そのときどきによって発電量が変わり他の発電方法よりも不安定な傾向にあります。しかし、倍速機というギアの役割を持った機械がついているため、効率よく発電できる工夫がされています。
洋上風力発電って?
陸上式との違い
洋上風力発電は、先述した風力発電を洋上(海の上など)で行う発電方法です。
一般的には陸よりも洋上の方が安定した発電が可能です。その理由は風が強いこと。皆さんも海沿いをドライブした際に海風が強くて驚いた経験があるのではないでしょうか。
建物などの障害物が少ないことと、温度差が陸よりも大きいことで、陸よりも風が強いのです。また、洋上というと海の上を想像しますが、海だけではなく湖やフィヨルドなどに設置するものも含めて洋上風力発電です。
発電方法自体に大きな違いはありませんが、洋上風力発電と陸上の風力発電には大きくことなる部分が2つあります。
一つ目は、送電方法です。洋上風力発電は陸上まで海底送電ケーブルが必要となります。そのため設置のためには海底の地形だけでなく、潮流なども検討する必要があり、技術面では難しくなります。
二つ目は発電機の大きさ。陸上のものは高さが100メートルほどであるのに対し、海上のものは180メートルほどとかなり大きくなっています。その分パワフルで発電量が多い傾向にあります。
種類
洋上風力発電の設置方法には「着床式」と「浮体式」の二種類があります。それぞれの特徴はどのようなものでしょうか。
・着床式
発電機の支柱を海底に埋め込んで固定する方法になります。
現在稼働している洋上風力発電の設備はほとんどがこちらのタイプ。もう一方の浮体式に比べると、技術的な導入ハードルは低く浅瀬での設置に適しています。水深50m以上の海域での設置はコストと技術面から難しくある程度の条件が整わなければ導入ができません。ただ、支柱が海底にしっかりと固定されるため頑丈で大型の発電機を設置できることがメリットです。
・浮体式
こちらは発電機を浮かせて海底のシンカーと呼ばれる係留に設置する方法です。こちらであれば水深50m以上の海域でも設置が可能なので、もっと普及すればより広い範囲で洋上風力発電が可能になるのです。日本は近海の水深が低いため、現在は浮体式に注目が集まています。
また、着床式と異なり海底に支柱を埋め込む必要がないため、設置にかかるコストが比較的安くこともメリットのひとつです。
注目の背景
洋上風力発電に注目が集まっているのはSDGsとカーボンニュートラルへ取り組みが本格的になっているため。日本は2050年までに脱炭素社会を目標としています。
政府が実現に向けてさまざまな道筋を検討するなかで、水素、蓄電池、カーボンリサイクルと並び、重点分野の一つとして洋上風力が選ばれているのです。
政府が発表した「洋上風力産業ビジョン(第1次)」では、洋上風力発電を主電力にするため「2030年までに10 GW(=原発10基分)、2040年までに浮体式も含む30 GW~45 GWの洋上風力発電を導入する」という具体的な数値があげられています。
メリットデメリット
メリット
洋上風力発電には多くのメリットがあります。それぞれ見ていきましょう。
・風が強いため安定した発電が望める
洋上は陸と比べて風が強いところが多く、比較的安定した発電が望めます。
風力発電では風速・風光・乱流強度などが重要なポイントとなってきますが、これらが良い場所が多いのです。
また、陸上に比べ大型の風車が設置可能となり、より大きな電力を生み出すことができるのです。
・問題が発生しづらい
実は風力発電で発生する騒音は105dbほど。これは芝刈り機と同程度だそうです。
そのため、周辺に住宅地などがあると騒音問題となってしまいます。
また、自然を観光業に利用している地域は、景観を損なうと言った声も。
洋上風力発電では、このような問題が起こりづらく最小限の影響に抑えられるのです。
デメリット
・コストが高い
陸上の風力発電よりも設置か難しくコストが高くなってしまいます。その割合は30~40%ほど。なかなか大きな数値ですよね。
陸へ電気を送るための海底ケーブルが必要なことや陸上の風力発電よりも大型の発電機が作られる傾向にあることもコストが高くなる要因となっています。
・メンテナンスが大変
海上の場合は、塩害や強風などの影響があるためメンテナンスに手間がかかります。
また保守点検の際に船舶での移動が必須となり、状況によっては風車に乗り移れないこともあるそうです。そのため、トラブルが起きた際に時間がかかってしまうことも多く、課題のひとつとされています。
・漁業への影響
まだ検証に十分なデータがそろっていないため、懸念点ではありますが、海中に建造するため環境面への影響が心配されています。
特に漁業を生計にしている人にとって生態系への影響は大きな懸念となります。
課題
メリット、デメリットの他に課題はあるのでしょうか。
・コストの削減
現在、建設・維持管理ともに大きな費用がかかっており、設置に関しては、陸上の風力発電の約2倍のコストがかかると言われています。
これらのコストをいかに下げることができるかが大きな課題のひとつです。2020年度の予算で総額2.0兆円のグリーンイノベーション基金が創出されました。その中のおよそ1,195億円が洋上風力発電へ充てられ、10年をかけて洋上風力発電の低コスト化の技術開発が行われています。
・漁業への影響
上記でも少し触れましたが、洋上風力発電の設置が海の生態系へ影響を与える可能性も。そのため、漁業関係者からの理解はなかなか得られていないことが現状です。
現在、生態系への影響は研究や調査が進んでいますが、実はデメリットだけではないことも明らかになっています。
例えば、着床式の洋上風力発電の支柱が魚礁となっている例が国内外で確認されています。魚礁とは海底の岩などに魚が集まり、漁場になるエリア。
このように漁業関係者と洋上風力発電の事業者、双方がしっかりと情報共有を行い、研究や調査を進めていくことが必須になっています。
(参考:公益財団法人 海洋生物環境研究所)
世界の動き
ヨーロッパ
デンマークが1991年に世界で初めて発電目的の洋上風力発電を建設しました。
その後、ヨーロッパでは相次いで洋上風力発電が開発され、2017年には累計導入量が2012年の3倍以上にまで増加したそうです。理由としては、洋上風力発電に向いた環境であるだけでなく、政府が洋上風力発電に関するルールを整備し、開発のリスクが減少したことも大きいようです。このように現在でも世界で最も洋上風力発電が普及しているエリアです。
(参考:資源エネルギー庁)
中国
近年、急速に洋上風力発電の導入が進んでいるのが中国です。
21年に買い取り優遇終了があり、駆け込みで1年間に16.9GW・約2600基の洋上風力発電を導入しました。機器の大型化は欧米に後れをとっていましたが、10MW超級風車の開発と実用化を急速に進めており、新設洋上風車の平均サイズが欧米を大きく上回る可能性も高くなっています。
(参考:一般社団法人 日本風力発電協会)
日本
世界では活発に建設されていることが分かりました。日本での動きはどのようになっているのでしょうか?
日本では、さまざまな理由から洋上風力発電の普及が進んでいませんでした。
しかし、2019年4月より「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)」が施行され、ルールが明確に定まったことで課題が整理されました。
それにより、適切な調整を経て事業を進めていけることが期待されています。
(参考:資源エネルギー庁)
秋田県
日本において、国が指定した促進区域が最多である秋田県。年間の風の強さや海の地形が洋上風力発電に適しているそうです。2030年までに100基以上の建設が予定されているほど。
洋上風力発電は、関連産業が多いためさまざまな企業から期待されています。
例えば秋田県の地元企業である「三栄機械」はビジネスチャンスとみて、数億円を先行投資したそう。もともと航空関係の部品を生産していましたが、コロナ禍による大打撃を受け、風力発電の分野に力を入れるようになったとのことです。
陸上の風力発電では既に他社と共同開発し、4基の設計製作を行っておりこのノウハウやつながりを洋上風力発電にも活かしていく予定だそうです。
(参考:「あきた経済」8月号)
参入している企業
先述した通り、洋上風力発電の普及には地元企業だけではなく、さまざまな企業の協力が不可欠となります。どのような企業が参入しているのでしょうか。
・電力会社
既に洋上風力発電の普及が進んでいる欧州などの海外企業と連携し、国内外で洋上風力発電の建設に取り組んでいます。
例)電源開発、JERA、東京電力など
・総合商社
電力関連の市場を広げるために、商材や流通網を活かし、国内外との企業の連携を強化しています。
例)三井物産、三菱商事、丸紅など
・再エネ開発事業者
陸上風力発電の開発・建設のノウハウを持つ企業が多く、その技術を洋上風力発電でも活かしています。
例)日本風力開発、コスモエコパワー、グリーンパワーインベストメントなど
・設備点検・メンテナンス事業者
陸上の風力発電と比べ、保守点検が難しい洋上風力発電。専門性を持つ事業者が協力しています。
例)ホライズン・オーシャン・マネジメント
このほかにも数多くの企業が参入し、手を取り合いながら洋上風力発電の建設に注力しています。
まとめ
脱炭素のためには欠かせない洋上風力発電は、まだまだ課題が多いことも事実ですが、
日本だけではなく世界中でどんどん普及していくと考えられます。それに伴い運用やメンテナンスのため、雇用創出などの経済効果も見込まれており、国際的にみると数十兆~100兆円の産業規模になると言われています。
今後の動向に注目しておきましょう。