宇宙太陽光発電とは?宇宙に浮かぶ発電所で、究極ともいえる再生エネルギーを発電!?

「太陽光発電で、天候や時間帯に左右されず発電が出来たらいいのに」と考える方も多いかもしれません。そんな夢を実現できるかもしれないプロジェクトが世界で進んでいます。それが「宇宙太陽光発電」。究極の再エネとも言われるこのシステムがいったいどのようなものなのか詳しく説明します。

宇宙太陽光発電って?

太陽光発電は、その名の通り太陽光を専用のパネルに集めて電気をつくる発電方法です。それでは通常の太陽光発電と、宇宙太陽光発電は何が違うのでしょうか?

 

宇宙太陽光発電は、地上ではなく「宇宙空間」で発電を行うというプロジェクトです。SBSP(Space-based solar power)や、SSPS(Space Solar Power Systems)と略されることが多いため、このあとは「SSPS」と記載します。

通常の太陽光発電は、地球上の日光が当たりやすい場所(山の斜面や建物の屋上など)に設置するのに対し、宇宙太陽光発電は、宇宙空間に太陽光電池を搭載した衛星を配置し、発電するというシステム。地上では天候や時間帯によって発電量が左右されますが、宇宙空間であればそういったものに左右されず安定した発電が可能です。

また、太陽光は地球上に届くまでに、大気の吸収などにより次第にパワーが減少していき、天候によっても発電量が大きく変化します。しかし宇宙空間で発電すると天候や時間、大気の影響は受けないため、地上と比べ約10倍の発電量になるという試算※もあります。

 

※出典 一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構

(https://www.jspacesystems.or.jp/project/observation/ssps/)

SSPSの歴史

SSPSは、1968年にアメリカのピーター博士により「究極の再生可能エネルギー」として初めて提唱されました。このころのアメリカは、アポロ計画真っ只中。さらに第一次オイルショックをトリガーにSSPSは一気に世間から注目を集め、1970年代後半から、米国航空宇宙局(NASA)と米国エネルギー省(DoE)が構想を検討しました。しかし、財政の緊縮などにより研究は凍結。

1990年代には日本でも研究が活発になり、旧宇宙科学研究所(現宇宙航空研究開発機構)を中心に多くの大学や国立研究所での研究が開始されました。現在でも日本政府の「宇宙基本計画」において、SSPSの実現に向けた研究開発に取り組むことを毎年明記しています。

 送電方法は?

気になるのは「宇宙で作った電気をどのように地球に送電するか」ではないでしょうか。SSPSでは、宇宙空間に打ち上げた「発電衛星」と、地球上の「受信局」によって電力供給を行う方法が検討されています。

 

発電衛星で作った電力を

 

・マイクロ波→飛行機の運航や気象観測のレーダーなどに使われている電磁波

・レーザー光→光ファイバーやCDの読み取りなどに使われている電磁波

 

などに変換後、地球上の受信システムに送り、それを再度電力に変換して利用します。

 

SSPSのイメージ(100万kw)

出展:経済産業省製造産業局宇宙産業室

コスト面は?

とんでもないコストがかかりそうなSSPSですが、実際のところはどうでしょう。現状、最も大きい宇宙構築物は国際宇宙ステーション(ISS)です。日本上空を横切ることもあるため、観測したことがある方もいらっしゃるかもしれませんね。ISSの大きさは幅約100メートル、質量約340トンで、ロケットを何度も打ち上げて部品を輸送し、軌道上において有人で組み立てて完成しました。ISSのプロジェクトにはアメリカ、ロシア、日本、ヨーロッパ、カナダの合計5つの宇宙機構が参加しており、各国の2010年の支出は下記と言われています。

 

・アメリカ→6兆4400億円(585億$)

・日本→2000億円

・ヨーロッパ→2500億円(19億€)

・カナダ→250億円(3億カナダ$)

※ロシアは自国管轄部分の費用をすべて負担し、利用権をすべて所有

 

合計すると約19兆3,300億円(1500億アメリカ合衆国ドル)にのぼると言われています。

 

それではISSより大きいとされるSSPSはどのくらいのコストがかかるのでしょうか?

日本エネルギー経済研究所の試算によると、構築コストは2兆3,600億円ほどになるそうです。(100万kWのシステム構築の場合)さらに、軌道間の輸送コストもかかるため、1機の打ち上げが100億円とされるH2Aロケットで輸送すれば、それだけで莫大な金額になります。

しかし、日本では地上の太陽光発電稼動率は14~15%で、宇宙での稼動率は90%以上という試算もあり、長期運用を行えば十分にコストを補うことができると言われています。

メリット・デメリットなど

ここまでSSPSについて説明してきましたが、メリット・デメリットや現状抱えている課題をより分かりやすく説明していきます。

メリット

・環境に優しい

一度打ち上げると、化石燃料を利用せず発電が可能であるため環境に優しい再生エネルギーになります。

 

・強度の高い太陽光を利用できる

太陽光は地球上に届くまで、大気の影響等を受けてパワーが弱まります。

しかし宇宙空間でより太陽に近い位置にパネルを設置することで、強力な太陽光を集めることが可能です。そのエネルギーは5~10倍と言われているため、送電時のエネルギー変換ロスを含めて考えても、地球上より効率よく発電できると考えられています。

 

・エネルギー価格高騰の影響が少ない

 日本の電力は70%以上が火力発電で賄われています。火力発電のために必須なのは石炭や天然ガスといった化石燃料。日本は化石燃料に乏しい国のため、外国から輸入して補っています。しかし、紛争等の影響で化石燃料は高騰する場合があります。宇宙太陽光発電が実現した場合、そういった世界情勢等にも影響を受けることは少なくなり、一定の金額で電力が供給できると言われています。

 

・天候などにとらわれず、安定した電力供給が実現

 地球上の太陽光発電システムは、天候や時間帯によって発電量が大きく異なってきます。晴れの日の発電量を100%と考えると、曇りの場合は40~60%、雨の場合は5~25%にまで発電量が落ちると言われています。

宇宙では、天候に影響されないことはもちろん、地球の自転により太陽が隠れることもないため、24時間発電することが可能なのです。

 

・送電が柔軟にできる

 受信システムを日本各所に作ることで、電力が少ない地域にピンポイントで送電することが可能になると考えられています。

デメリット・課題

・コスト面の削減

先述した通り、現在のままだと建設までに莫大なコストがかかってしまいます。実現のためには輸送用ロケットの大型化や、低価格で打ち上げが可能なロケットの開発等が必要になってくるでしょう。

 

・宇宙ゴミ(スペースデブリ)や故障の際の対処が難しい

宇宙ゴミとは、軌道上にある壊れた人工衛星やロケットの部品など、宇宙に漂う人工物を指します。大小さまざまな物体が秒速7~8kmで周回しているため、1mmのゴミであってもパネルに穴をあけてしまうと言われています。構造上は穴が開いても機能し続けるように設計されていますが、長期間使用すると穴の数が多くなりいずれは故障してしまうため、その際の対応方法も課題の一つとなっています。

 

・マイクロ波/レーザーによる地球環境への配慮が必須

SSPSから送電するエネルギー量は100万kwにもなります。現在の設計ではマイクロ波の密度はかなり弱くなるため、人体等への影響はほとんどないと考えられています。しかし、受信システム以外の場所に届くことがないように、システムを制御する研究が進められています。

 

・運用を終えたシステムの廃棄方法に課題がある

送電・受信ともに、非常に大きな設計物となるため、寿命を迎えたシステムの廃棄方法や再利用方法も大きな課題のひとつとなっています。

世界の動き

1968年にアメリカで提唱されたSSPSですが、現在ではどのように研究が進められているのでしょうか?

実は技術面やコスト面から、アメリカをはじめとする世界での研究は一度ストップしていました。1980年以降で研究が進められていたのは日本だけ。そのため、宇宙太陽光発電において、いまや日本は世界最先端となっています。

しかし、2010年代から宇宙太陽光発電の研究からスピンオフされたワイヤレス給電などの実用化の検討が開始されたことをきっかけに、アメリカ・ヨーロッパ・中国・韓国などで研究が加速しました。

アメリカでは、2019年より、約100億円をかけ、宇宙太陽光発電の本格的なプロジェクトを始動しています。中国も2021年より研究所を建設し、発電衛星を打ち上げる計画を進めているとされています。

 

そんな中、日本でも2022年度から宇宙太陽光発電の実証試験を本格化。JAXAと文部科学省はISSへの物資配達用のロケットに太陽光パネルを搭載して打ち上げ、2023年にもパネルを宇宙空間で展開する計画です。また、2030年代に30メートルほどの太陽光パネルを宇宙空間に浮かべる大規模実証も予定されています。

まとめ

まだまだ課題が多い宇宙太陽光発電ですが、実現すると莫大な電力を手に入れることが可能です。

ちなみに日本で有名なロボットアニメシリーズ「ガンダムOO」にも宇宙太陽光発電システムが登場。SFアニメにも登場する夢のシステムの実現のために、日々多くの方が研究を進めています。

研究が注目され盛り上がることも研究費用を得るためには必須。SDGsの目標達成のために、再生エネルギーが注目される中、究極の再生エネルギーと言われる宇宙太陽光発電は大変魅力的です。今後の展開に期待大ですね!