エネルギー事業の理想、シュタットベルケとは?
「シュタットベルケ」という言葉を耳にしたことはありますか?
電気、水道、ガス、水道廃棄物収集、交通等の公共サービスを行う事業者のうち、自治体が資金を提供している事業者をシュタットベルケと呼びます。この記事では特徴や歴史、注目されている理由などを説明します。
聞いたことある?シュタットベルケ
「シュタットベルケ」はドイツ語で直訳すると「町の事業」という意味です。「ゲマインデベルゲ」と呼ばれることもあります。あまり馴染みがない人が多いかもしれませんね。
シュタットベルケはドイツ・オーストリアの発祥で、電気、水道、ガス、水道廃棄物収集、交通等、公共サービスを行う事業者のうち、自治体が資金を提供している事業者を指します。日本では「都市公社」がシュタットベルケに該当し、2016年の電力自由化に伴い、この様式を取り入れる企業が増えています。
さらに日本政府も、シュタットベルケに注目しており、10のシュタットベルケを含む17団体にヒアリングなど実施しています。このことから日本でも非常に期待を集めていることが分かります。(参考リンク)
特徴
エネルギー事業と地域振興を結びつける理想的なモデル
地域が抱える問題を解決する方法の一つとして期待されるシュタットベルケ。
理由としては下記の図のように、電力・ガス等の利益の出やすい事業を軸に、公共サービスを広く展開し、利益を他のサービスに利用することができるからです。
(引用)
公共交通・通信等の採算が取りづらいけれど、必要なサービスを続けるために、シュタットベルケを取り入れることが解決方法の一つとなります。
元手の確保
シュタットベルケは、自治体がサービスに必要な元手を負担し、運営を民間企業が行います。出資金額は団体等によってさまざまですが、100%自治体が負担していることが多いです。また、元手の半分以上を自治体が出資することが必須条件となります。
民間企業が運営を行うことで、さまざまなノウハウを活用し、効率的にサービスをマネジメントできることが大きなメリットの一つです。
さまざまな背景
シュタットベルケの特徴が分かったところで「なぜシュタットベルケが生まれたのか?」その背景についてみていきましょう。
ドイツで生まれた背景
実は歴史が古く、19世紀後半の自治体社会主義の動きから生まれたシュタットベルケ。
1980~90年代にかけ、ドイツではさまざまな事業の民営化が行われました。この民営化は自治体の財政を立て直すことを目的としたもの。そのため自治体事業の一部もしくは全てが民間企業や投資家に売却されたり、民間企業に業務が委ねられたりすることが多くなったのです。
そしてベルリンの壁が崩壊し、東西ドイツが統一。1992年、連邦憲法裁判所における和解が成立し、東ドイツの各自治体もさまざまなインフラの権利と自治体独自の公共事業を設立する権利を持つことになりました。こうして新しい連邦州において多様なエネルギー産業が支持されるようになったのです。
なぜ日本で注目されている?
古い歴史を持つシュタットベルケが、なぜ近年の日本で注目されているのでしょうか?
国の財政難
まず一つ目の理由として少子高齢化と人口減少が進み、財政が厳しくなっていることが挙げられます。私たちの生活には都市施設やインフラの維持と更新は必須ですが、税収が減ることでその財源の確保が将来厳しくなると予想されています。
この課題の解決策として、シュタットベルケが注目されているのです。
現在、日本で導入事例が増えるよう日本とドイツの制度の違いや文化的背景等の調査・研究が進められています。(参考)
FIT制度と電力自由化
ドイツから約20年遅れてFIT制度の導入と電力自由化を開始した日本。
これにより電力に関わる環境が大きく変化し、電気に関する新しいビジネスが生まれています。その中には地域での新しい雇用に繋がり、経済の活性化に繋がるものも多いです。
ドイツのシュタットベルケでは、再生可能エネルギーで発電した電気等を小売りし、黒字を維持しています。そしてその収益で赤字の公共サービスを支えている場合も多いため、日本でも電力自由化に伴って注目度が上がっているのです。
うまく導入が進むと、再生エネルギー分野だけでなく、まちづくりや地方創生なども活発になると考えられています。
導入事例
大きなメリットがあるシュタットベルケですが、本国のドイツと日本ではどのように導入されているのでしょうか?
ドイツ
ドイツではシュタットベルケが1400ほどあり、そのうち900ほどがエネルギー事業を主軸としているそうです。具体例をひとつ見てみましょう。
Stadtwerke München
ミュンヘン市にある「シュタットベルケミュンヘン(SWT)」は100%、市が出資していることが最大の特徴です。ドイツ内でも上位の売り上げを出しており、地域の雇用を生み出しています。
特に再生可能エネルギー事業に力を入れており、2025年までにミュンヘン市の電力需要(約7TWh)を全て再生可能エネルギーでまかなうことを目標としています。
さらに、地下水・小川を利用した地域冷房にも注力。
地域冷房とは、地域全体に冷房サービスを提供するためのエネルギー供給システム。個々の建物が独自の冷房システムを持つ代わりに、複数の建物や施設が一つの冷房システムに接続され、冷房を共有する仕組みです。これにより、通常の住宅用空調システムに比べ約70%もの節電ができると言われています。
日本
日本でも既に30ほどのシュタットベルケが創られています。
最初に創られたシュタットベルケを具体例に見てみましょう。
みやまスマートエネルギー
日本で最初のシュタットベルケである「みやまスマートエネルギー」は、福岡県みやま市の電力会社です。2015年に作られ、みやま市が55%の出資を行っています。
メガソーラー(5MW)による発電事業や、一般家庭からの余剰電力の小売りにより得た収益の一部を地域の公共サービスに還元しています。
生活インフラである電気を安定的に安く提供するだけでなく、高齢者の見守りや子育て世代の支援などの生活支援サービスを付加価値として提供しています。
一般家庭の電気代が毎年47億円ほど市外に流れており、これを市内の電力会社に切り替えてもらうことで、エネルギーの地産地消を目指しています。その結果、雇用と利益が生まれ、最大限市民サービスに還元できるのです。(参考)
まとめ
シュタットベルケは地域資源を最大限活用できるだけでなく、雇用の創出や地域の活性化につながるなど、たくさんのメリットがあります。
ドイツ・オーストリアの成功事例を参考に、今後日本でも導入が進むのではないでしょうか。
今後の動向に注目しましょう。