脱炭素の鍵を握るVPP(バーチャル・パワー・プラント)/仮想発電所とは?

再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、分散型の小規模発電施設などを束ねて一つの発電所のように機能させるVPP(仮想発電所)が注目されています。ここでは、VPPの概要と導入メリット、日本における事業化への取り組みについてご紹介します。

 

VPPとは

VPPはVirtual Power Plantの略で、日本語では「仮想発電所」と呼ばれるものです。企業や個人が所有する太陽光発電や風力発電などの発電設備、蓄電池や電気自動車などの蓄電設備、エアコンや室内灯といった需要設備をIoTの技術で相互につなぎ、一つの大きな発電所のように機能させることを指します。

 

VPPの仕組み

VPPは、

①需要家:発電設備、蓄電設備、需要設備を持つ企業や個人

②リソースアグリゲーター:需要家と直接VPPのサービス契約を結び、設備の制御を行う事業者

③アグリゲーションコーディネーター:リソースアグリゲーターが制御した電力量を一括で管理し、一般送配電事業者や小売電気事業者と直接電力取引を行う事業者

の3つの立場の人々によって構成されています。アグリゲーションコーディネーターは、リソースコーディネーターを通じて需要家が持つ発電・蓄電・需要設備を制御することによってVPPを運用します。

 

VPPの役割:電力需給のバランス調整

「仮想発電所」というと電力を生み出すことが主要な役割と思われがちですが、VPPに最も期待されているのは電力需給のバランス調整です。そもそも電気はそのままの形で貯蔵しておくことができないという性質を持っており、また需要過多・供給過多に陥った場合には停電などの事故が起こる可能性があります。そのため常に電力の需要量と供給量を一致させる必要があるのですが、従来需要量は基本的に調整できないものとされ、火力をはじめとした大型発電所の運転をその都度制御することでバランスを保っていました。VPPの場合は本来電力の需要家である企業や個人の発電設備、蓄電設備、需要設備にアクセスがあり、需要量も調整することができるため、より機動的かつ効率的な需給のバランス調整が可能になります。

 

需要量を調整するDR

VPPにおいて需要量を調整するための手法がDR(ディマンドリスポンス)です。DRとは、電力の供給量に合わせて需要家側に働きかけ、需要量を調整することを指します。例えば、電力供給がひっ迫しそうな場合に空調や照明を調整して消費を抑える、供給過多に陥りそうな場合に蓄電池を充電する、といった方法があります。VPPに参加しDRに応じた需要家は、需要抑制可能な容量や実際に削減した電力量に従って報酬を受け取ることができるため、需要家にも参加メリットがあります。

 

注目されている背景

電力需給のバランス調整の重要性増大

2011年、東日本大震災の影響により電力需給がひっ迫し、計画停電が行われたことを覚えている方も多いのではないでしょうか。それをきっかけに、これまでのように大型の発電所に需給のバランス調整を頼るのではなく、より柔軟なエネルギー管理を行うことの重要性が強く認識されました。また、近年は脱炭素の流れも加速しており、再生可能エネルギーの導入が進んでいます。自然環境に発電量が左右されるというその特性をカバーするため、需給のバランス調整能力を持つVPPが注目されているのです。

 

需要家側のリソースの拡大と技術の進歩

政府の補助金などの後押しもあり、太陽光発電や燃料電池などの小さな発電設備が住宅やオフィスに広く導入されるようになりました。蓄電池、電気自動車などの蓄電設備も普及しており、VPPの重要なアクターである需要家側のリソースが充実してきたことも注目される要因の一つと言えます。また、VPP実施のためには、多種多様な需要家側の設備を遠隔から監視し制御するシステムやIoTを活用した通信技術、情報を集約し全体最適化するAI技術などが不可欠です。これらの技術の発展に伴い実証実験や市場の整備も進み、注目度が増してきました。

 

VPPによって実現できること

再生可能エネルギーの導入拡大

二酸化炭素の排出量削減のためには活用が必須の再生可能エネルギーですが、日射量や風の強弱などの自然環境により発電量が変動してしまうため、需給のバランスをどのように保つかということが導入拡大にあたっての障壁となっていました。現在はその調整を火力などの大型発電所が担っていますが、VPPとそれを通じたDRを実施すれば、各家庭や企業が持つ太陽光パネルや蓄電池、電気自動車などの活用によって火力の調整能力を代替し、再生可能エネルギーの導入をさらに進めていくことができるのです。

 

発電コストの削減

現在の電力供給設備は、需要量のピーク時に電力をまかなえるよう維持・管理されています。このピークにあたる時間帯は年間で見てもわずかな時間ですが、それに合わせて設備を維持しておくために多大なコストが発生しています。この問題をVPPが解決できるのです。VPPでは需要が集中しがちな時間帯の電力消費を削減したり、分散させたりすることで、需要量のピークを抑えることができます。すると維持しておくべき電力供給設備が少なくなるため、維持費や設備投資費などのコストを抑えることができるという仕組みです。

また、VPPによる需要や供給の創出には本来別の目的をもって導入された需要家側の蓄電池や電気自動車などを活用するため、その点でも設備投資などのコスト削減につながると言えます。

 

VPP事業化への取り組み

日本では、2015年6月に政府が閣議決定した「日本再興戦略」でVPPを活用していくことが記されました。これを受けて2016年4月に経済産業省が発表した「エネルギー革新戦略」ではVPPの実証実験や事業化を促すとされ、2020年度までの5カ年計画での補助金などを通じVPPに取り組む企業を支援してきました。2021年度からはVPPによって捻出した電力需給の調整力を取引する需給調整市場が開設され、関西電力や東京電力ホールディングスなどがアグリゲーターとして参入しています。

 

今後の展望

VPPは再生可能エネルギーの導入で先行する欧米において活用が進んでいますが、今後日本でもVPP関連市場は拡大していくとみられます。更なる活用促進のためには、需給調整のための技術はもちろんのこと、需要側の重要なリソースとなる蓄電池や電気自動車の普及が不可欠です。より大規模なVPPの実施には多くの需要家の参加も必要となるため、どのように需要家側の機器導入やVPPへの参加を促すかが注目されます。