ゼロ・ウェイストとは?~日本初の宣言都市、徳島県上勝町の取り組み~
ゼロ・ウェイストって?
「ゴミや廃棄物をゼロにすること」という目標の元、できる限りゴミ・廃棄物を削減する活動のことをゼロ・ウェイストといいます。
現在、さまざまな理由から世界中より関心を集め、広まっている活動です。
どんな活動を指すの?
▼企業
・レンタルサービスの利用やカーシェアリング等、物資の流通方法を変える
・資源を無駄遣いしない生産方法の考案 等
▼個人
・「5R(下記で説明)」を心掛けた生活
・リサイクルしやすいようにしっかりとゴミを分別する 等
たくさんの個人・企業が「ゼロ・ウェイスト」を意識することができれば、莫大な量のゴミを減らすことができます。
なぜゼロ・ウェイストが関心を集めているのか?
プラスチックのゴミ問題
ゼロ・ウェイストに注目を集める大きなきっかけとなったのはプラスチックのゴミ問題が世界中で問題視され始めたことです。使い捨てられたプラスチックゴミが海を汚していることが特に問題視されており、これを「海洋プラスチック問題」といいます。
環境省の調べによると、2050年には、海の中のプラスチックゴミの重量が魚の重量を超えるのではないかと考えられ、非常に深刻な問題です。
日本ではたくさんのプラスチックがリサイクルに回されていますが、回収されたプラスチックの約8%しか、モノからモノへと生まれ変わる「マテリアルリサイクル」を行われていません。それ以外の多くのプラスチックは焼却処理されており、その際の熱を利用することがリサイクルといわれています。焼却処理の際に発生するCO2(二酸化炭素)は、温室効果ガスと呼ばれ、大気汚染や温暖化の一因と言われています。
海洋プラスチック問題って?
ポイ捨て等により、海に流れ込んだプラスチックは、ほとんどが分解されず海洋生物の生態系だけでなく私たちの生活にも悪影響を及ぼしています。そのため、多くの国や企業がこの問題に関心を寄せています。
では海洋プラスチック問題は何が「問題」なのでしょうか?
・海洋生物への影響
・生息環境の悪化による生物多様性の低下
・環境保全機能の損失
・漁獲量の低下
・流れついたゴミによる景観の悪化(観光業への影響)
・プラスチックの成分を取り込んだ海鮮類を食べることによる、人体への影響
最も影響があるのはやはり海洋生物への影響です。
ポリ袋はクラゲや海藻に似ているため、ウミガメやクジラが誤食してしまうことが多くあります。もちろんプラスチックは生き物では消化できないため、死亡に繋がります。
例えば、外国の海岸でクジラの死骸が発見された際、胃には40Kgものポリ袋が詰まっていたそうです。
胃にポリ袋が溜まると、常に満腹感がある状態になってしまいます。
その結果、食欲が低下、そのまま栄養不足になり、衰弱死してしまうと考えられています。
ゼロ・ウェイスト宣言発出の世界都市
世界初のゼロ・ウェイスト宣言都市は、オーストラリアの首都・キャンベラです。
1996年に発出後、どんどんゼロ・ウェイスト宣言の都市が増え、今では世界27都市が宣言するに至りました。
現在ゼロ・ウェイスト宣言をしている都市の一例
・オークランド
・ボストン
・コペンハーゲン
・ロンドン
・カタロニア
・ナバラ
・ニューベリーポート
・サンノゼ
・サンタモニカ
・ウェールズ 等
日本初のゼロ・ウェイスト宣言都市、徳島県上勝町
上勝町ってどんな町?
SDGsに関心のある方であれば「徳島県上勝町」ときいてピンとくる方も多いのではないでしょうか?
上勝町は日本で初めてゼロ・ウェイストを宣言した町になります。2016年に町全体のリサイクル率が80%を超え、その後も81%ほどをキープしている素晴らしい町です。
県庁所在地である徳島市から車で1時間半ほどの山の中にある穏やかな町が、なぜ「ゼロ・ウェイスト宣言」を日本でいち早く発出することになったのでしょうか?
昔、野焼き処理をしていた上勝町は、ゴミの種類に関わらず、何でも燃やしていたそうです。そのため、処理場周辺は常に悪臭と黒煙が漂っていたそう。
その後、1998年に小型焼却炉を導入することになりましたが、処理後の灰の量が多く、その灰の処理にも困ってしまうことや、法改正の関係からすぐに閉鎖という決断になったそうです。焼却炉の閉鎖に伴い、分別を増やして燃やすごみを減らす取り組みを当時の町長が決意。閉鎖が決定したあと1か月という短い猶予の中、担当課の職員はたった数名で全55集落を回り、必死に説明をしたそうです。その甲斐あって、反対運動や混乱もなくゴミは35分別へ。2001年に焼却炉は閉鎖されました。
「なるべくゴミを燃やさないようにするため、多分別をする」という独自のゴミ処理を始めた上勝町。
その噂を聞き、来徳したのがゼロ・ウェイストを提唱しているアメリカの科学者の「ポール・コネット博士」でした。博士の勧めを受け、2003年、日本の自治体として初めてのゼロ・ウェイスト宣言を発出。
町外の方からは「宣言をしたから多分別をはじめたのでは?」と誤解されてしまうそうですが、上勝町では、宣言より前から多分別を行っており、その結果、宣言につながったのです。
その後、老朽化したゴミステーションを「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」として2020年にリニューアルオープン。
町唯一のゴミ収集所が併設された公共複合施設となっており、町外の自治体の視察先にもなっています。また「HOTEL WHY」も併用されているため修学旅行の受け入れや、企業のテレワークや研修先としても選ばれる場所に。
上勝町の中心的な存在となり、「ゼロ・ウェイスト」を世界に発信しています。
ゼロ・ウェイストセンターの取り組み
センターで行われているゴミ分別の取り組みをご紹介します。
1、ゴミの価値を可視化する
ゴミステーションには45に細分化されたカテゴリーエリアがあります。
各エリアには1キロあたりの処分費用や「徳島市で固形燃料にリサイクル」等、どのように処理されるかまで記載されています。
このように資源の循環が一目で理解でき、自分が捨てるゴミがどのような価値を持つのかを目で確認することができます。
2,汚れは少しであってもなるべく取り除く
同じようなゴミであっても、汚れの有無でゴミになるか資源になるかが決まります。
そのため、水でゆすぎ、なるべくリサイクル可能な資源にできるよう目視で確認・処理しているそうです。
3,単一素材でまとめる
多くの自治体では古紙を束ねる際はビニール紐を使います。ただ、ビニール紐で束ねた場合、ゴミ回収後、業者側で再度分別する必要が出てきてしまいます。
そのため、上勝町では紙製の紐を推奨。単一素材でまとめられている場合、業者の分別する手間が省かれ、買い取り単価を高く設定してくれるそうです。
また、ゴミ回収の際に新たなゴミ(ビニール紐)を作ってしまうことも防ぐことができます。
4,誰でも簡単に情報を得られるようにする
センターでは営業時間内であれば、スタッフが常駐しています。そのため分別方法がわからなければすぐに聞くことが可能です。
また、施設内やWebページでも分別情報を詳細に公開しており、住民が不自由なく情報にアクセスすることができます。
このように欲しい情報がすぐに手に入る環境を作ることで、分別の協力が得られやすくなっているそうです。
5、魅せることを意識する
ゴミステーションには、ゴミ捨て場だけでなく「くるくるショップ」が併設されています。
町民がまだ使えるものを無料で持ち込み、無料で持ち帰ることが可能な施設となっています。
なんと年間で4.5tものリユースが行われており、これはアジアゾウのオス1頭と同じくらいの重さになります。
引き取りに関しては町民以外も無料で持ち帰ることができるため、旅行時に覗いてみるのもおすすめです。
また、併設ホテルの一部にリユース・リサイクル家具を使っていたり、町内から集めた古い窓枠を利用したりとリニューアル時の設計においても環境に優しい配慮がされています。
このような徹底的な取り組みはゴミを減らすことだけでなく、視察にやってきた人の興味・関心を誘います。
6、「何度も来たくなる」空間を維持する
ゴミステーションでは、スタッフが常に清掃をしており、ゴミ収集所であることを忘れるくらいのキレイさが保たれています。
住民が個々で処理しきれない粗大ゴミまで丁寧に分解・整理し、主な臭いの元となる生ごみは各家庭で処理をお願いしています。
そのすることで、ゴミ捨て場特有の臭いも全く感じない清潔な空間になっています。
「HOTEL WHY」で宿泊し、ゼロ・ウェイストを体験
「WHY」は、センター内に位置している宿泊施設です。
宿泊を通じて上勝町の暮らしを体感することが、日々の生活で出るゴミを見つめ直すきっかけになるのではないでしょうか。
センター内の施設紹介や、上勝町がこれまで取り組んできたゼロ・ウェイストの歴史についてスタッフが解説する“STUDY WHY”を行っていることが特徴です。
希望すれば、滞在中に出たゴミが上勝町ではどのようにリサイクルされるかを知ることが出来る「ゴミ分別体験」に参加することも可能です。
また、使い捨てアメニティの提供はせず、滞在中に必要な石鹸と飲み物をチェックインの際に量り分けにて提供する点が通常のホテルとは大きく異なります。
洗濯排水を限りなく少なくするために寝間着もない等「ゼロ・ウェイスト」を徹底している宿泊施設になっています。
個人で始めよう!ゼロ・ウェイスト
ゴミを可能な限り少なくし、なるべくゼロに近づける暮らしは「ゼロ・ウェイスト生活」と呼ばれています。
鍵となる以下の「5R」を意識して生活できれば、ゼロ・ウェイストに近づけるでしょう。
1,『Refuse(リフューズ)=断る』
不要なものや、すぐに捨ててしまうものは、できる限り事前に断ることができるといいですね。
例えば、プラスチックストロー、使い捨てのカトラリーやレジ袋等を断ることができれば、ゴミは減っていきます。
2,『Reduce(リデュース)=減らす』
使い捨てのモノや、使い切れないモノをできるだけ買わないように意識していきましょう。
たとえば、マイカトラリーやマイボトル、マイタンブラーを持ち歩けば、使い捨ての食器類の消費を減らすことが可能です。
3,『Reuse(リユース)=再利用』
自分にとっては不要なモノでも、他の誰かに譲ったり、他の用途に使ったりできるモノもたくさんあります。
古着屋さんやフリーマーケットを有効活用してみましょう。
4,『Reuse(リユース)=修理』
故障してしまっても、修理をすれば再利用可能なモノもたくさんあります。
捨ててしまう前に、再利用が可能か検討してみましょう。
5,『Recycle(リサイクル)=資源として再利用する』
すぐに捨ててしまうのではなく、処理をして、資源として再利用していきましょう。
リサイクル原料を使用した商品や、リサイクル活動を推進する企業の製品を選んで買うことも活動の一環になるので、何かを買う際にはよく調べてみましょう。
まとめ
すべてをいきなり始めることは難しいため、できることから少しずつ始めてみてはいかがでしょうか。
一番大事なのは、楽しみながら続けること。
少しずつゴミを減らすことを楽しんで実践・継続していきましょう!