水産養殖×水耕栽培=アクアポニックス!
アクアポニックス・・・?聞き馴染みのない単語ですが、実は今注目されつつある農業システム。
どういった農業なのか、具体的な内容を詳しく説明していきます。
アクアポニックスって?
水産養殖の「Aquaculture」と、水耕栽培の「Hydroponics」を掛け合わせた造語で、サステナブルな循環型農業システムとなります。一言でいうと「水槽の水を、植物の栽培に使用する」農法。
魚の排せつ物を微生物が分解し、それを栄養に植物を育てていきます。また、植物がろ過した水を水槽に戻すことで水槽の水を交換する必要がなくなるなどのメリットも。
魚の飼育と野菜の栽培の関係性
「水槽の水を野菜の栽培に利用することに何のメリットがあるのか?」と疑問がわいた方もいるのではないでしょうか。
実は魚の飼育と、野菜の発育には大きな関係性があるのです。
魚を飼育する際に、課題になってくるのは水槽の汚れに伴うアンモニア・亜硝酸の発生です。
アンモニア・亜硝酸などは、魚の排せつ物や食べ残しの餌が腐敗することで発生するものですが、魚に対する毒性がとても強いです。そのため高濃度になると魚が死んでしまうのですが、これらの成分は実は植物にとっては栄養となります。つまり魚の排せつ物によって発生した有害な成分は植物の発育に利用され、水は綺麗なままという素晴らしい循環システムになっています。
注目・必要とされる背景
1970~80年代にアメリカで始まり、NGOや国連で実用化されていたアクアポニックス。
当時の認知度は、正直低かったようです。しかし2000年代に入ると徐々に世界でも広まり始め、2015年に採択されたSDGsにより、さらに注目を集めるようになりました。
持続可能性の高さに注目が集まる
通常の農業の場合、野菜の品質を守るために農薬や化学肥料を大量に使用することが多いです。しかしそれに伴い、農地の土壌環境が悪くなり、生態系のバランスが崩れることも多いため、持続性の点では多くの課題があると言われています。
しかし、アクアポニックスで重要とされているのは「生態系のバランス」。
魚を飼育する環境を維持するためには農薬などの使用はできません。そのため、アクアポニックスで栽培される植物は、結果としてすべてオーガニックとなるのが特徴です。アメリカではアクアポニックスで生産されたものに対して、USDA(オーガニック認証)の取得が認められています。このように、農薬や化学肥料を使わずとも、野菜の品質が保たれ、生産と環境配慮を両立することが可能なのです。
“水で行う有機栽培”とも呼ばれており、地球に最も優しい究極の農業なのではないかとの声もあるほど。また、低いコストで安定した生産が可能かつ、手間もかからないため、持続的に行うための条件も揃っています。
規模も自由なので、企業だけでなく都市農業やアクアリウム+家庭菜園としても広がり始めています。
アクアポニックスのメリット
環境面
最大のメリットとしては、環境に優しい点です。
自然界の縮図ともいえるアクアポニックスは、水をいっさい捨てない・換えないシステム。
水を循環させることで、通常の農業より約80%の節水効果が期待できます。また、農薬や化学肥料を使わないため、通常の養殖業・水耕栽培の農業の排水による汚染が比較的少ないのも特徴。こういったことは水資源の保護に繋がります。
短期栽培が可能
実は土壌栽培と比較すると栽培期間が半分になるアクアポニックス。
土壌栽培の場合では収穫まで60~90日かかったレタスの栽培が、最短25日で収穫が可能になる大きさまで成長した※という結果が出ています。
※出典:株式会社プラントフォーム
これによりニーズに合わせ、効率的に栽培できるため、高付加価値野菜の生産が計画的に行えるのです。
生産性の高さ
通常の水耕栽培では化学肥料である「液肥」を使用し、水に栄養を含ませるのが一般的です。それに対し、アクアポニックスでは、養殖している魚の排せつ物などが微生物によって分解され肥料代わりになります。肥料代もかからず、加えて魚も収穫できるアクアポニックスは、生産性の高い農業システムになっています。
デメリットや課題
メリットが多いアクアポニックスですが、デメリットや課題もあるのが現状です。
アクアポニックスの認知度が低い
日本ではまだまだ認知度が低いアクアポニックス。
アクアポニックスは、資源不足の国で発展した農業システムです。日本ではきれいな淡水が比較的手軽に入手でき、海洋資源にも恵まれているため、浸透が遅れているのではないかと言われています。
そのため、生産した野菜が市場に並んだ場合でも聞き馴染みがなかったり、通常の農作物との違いが分からない人が多かったりするため、購入する方が少ないことが予想されます。
通常の野菜より値は張りますが、有機野菜等の良いものを気軽に購入することができるため、それとの違いが分からなければ、購入したいという気持ちにはなりませんよね。
現に「アクアポニックスで作られた」ということが全面に押し出された野菜ブランドはほとんどありません。
また、講習会なども開催される機会が少ないため、アクアポニックスを学習すること自体にハードルを感じる方もいらっしゃるかもしれません。先述した株式会社プラントフォーム等、アクアポニックス導入を支援している日本企業もあるため、そういった企業を探し、問い合わせしてみるのも1つの方法です。
栽培システムの変更や増設が難しい
栽培する農作物の種類によってシステムの設計が異なるため、同じシステムで別の野菜を育てることができないのがデメリットのひとつです。
たとえばトマトを栽培していたシステムで、リーフレタスに変えたいと思っても、それは不可能なのです。さらに同じ作物の生産量を増やす場合も、システムの設計によっては初めから作り直す必要がある場合も。
それぞれの野菜に適したシステムが必要となるため、スタート時点から綿密に計画を立てることが重要です。
SDGsとの関連性
SDGsとは?
関連性を見る前に「SDGsとは何か?」を説明します。SDGsは2015年に開催された国連総会にて、全加盟国が賛同した国際目標のことです。
2030年までに世界が抱える環境・社会・経済の課題解決を目指し、17の目標と169のターゲットが設定されました。SDGsは国家・政府や企業などだけで行うものではなく、1人ひとりが無理のない範囲で継続的に取り組むことが大切だとされています。
特に関連性が高い目標について説明していきます。
目標2「飢餓をゼロに」
アクアポニックスは、少ない資源で安定した生産量を確保することができます。さらに通常の土壌栽培よりも、早く収穫することが可能で、魚も一緒に育てられます。
食料不足であったり、農業技術が整えられていなかったりする国や地域にとっては理想的なシステムと言えるのではないでしょうか。
目標6「安全な水とトイレを世界中に」
アクアポニックスでは、魚の排せつ物などで汚染された水を、循環させ、浄化することができるシステムです。これにより汚染を出すがほとんどありません。
目標13「気候変動に具体的な対策を」
気候変動は、CO2をはじめとした温室効果ガスが大きな原因のひとつであると言われています。アクアポニックスは太陽光や地熱などの再生可能エネルギーを活用できるため、脱炭素に貢献しているシステムであると言えるでしょう。
また、農薬や化学肥料が不要なため、飼料を輸送する際に出る排気ガスを削減することもできるのです。
実際にどういったものが育てられる?
野菜
主にリーフレタスなどの葉物野菜やハーブ類が育てられています。他にもトマト・イチゴ・メロンなどの果菜類、バナナ・パパイヤなどの果樹やエディブルフラワーまで、幅広く育てることができます。
魚
主にイズミダイ・チョウザメ・ホンモロコなどの食用淡水魚が育てられています。海水魚やオニテナガエビなどの飼育についても研究がされています。観賞魚では、錦鯉、金魚、熱帯魚など。
自宅でもできる!
実は、アクアポニックスは自宅でも簡単に実践することができます。
そのためには、水槽メーカーから出ている家庭用アクアポニックスキットを利用するのが手軽でおすすめ。水槽に加え、植物用のプランツバスケット、水中ポンプなど、アクアポニックスに必要なものがセットになった商品です。魚・植物などは別売りとなりますが、ホームセンターで揃うものがほとんどのため、すぐに始めることができます。
もちろん、キットを使わずにアクアポニックスを自作することも可能です。自分で準備するものは多くなりますが、自分に合ったスペースで作成できるメリットがあります。
まとめ
一般的な農業よりも少ない水で育ち、農薬・化学肥料を使わず生産性の向上が可能など、大きなメリットがたくさんあるアクアポニックス。現代では持続可能な農業が求められているため、最適な農業システムだと言えるのではないでしょうか。しかし、デメリットや課題も多々あるのも事実です。
しっかりとメリット・デメリットを把握し、正しく活用することで、生産性と環境配慮の両立が実現するだけではなく、SDGsにも貢献することが可能になります。