どんどん増える市場。セルロースナノファイバーって?

世界規模で市場を広げ続けるセルロースナノファイバー(=CNF)。

どういうものなのか、どういった用途で使われているのかを詳しく解説します。

セルロースナノファイバー(CNF)について

日本は台風大国です。車や家までも吹き飛ばしてしまうニュースもよく目につきます。しかし、その強風にもほとんどの木は倒れません。その様子を見て「どうして頑丈なのだろう?」という疑問から生まれたのが「セルロースナノファイバー(=CNF)」です。

 

CNFは植物の主成分である「セルロース」から抽出した繊維状の素材です。直径が数~数十nm(ナノメートル)の細い繊維であることから「ナノファイバー」と名付けられました。

製造方法は、木材をカットして小さくした後、1本1本の繊維をパルプ化。パルプをさらに処理して解繊する(細かくほぐす)ことで、CNFが造られます。

なぜCNFに関心が集まっているのか?

第一に期待されていることとして、CNFが普及すれば環境負荷を減らすことができるのではないかということです。CNFは植物が原料となる天然素材です。

そのため、古紙や農業廃棄物(収穫後の稲藁等)なども原料にすることができるため、資源のリサイクルが可能です。加えて、植物は光合成でCO2を吸収して育つため、カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出をゼロに)も実現が可能な素晴らしい素材です。

計画的に、植物(原料)を栽培することで、持続可能であり、SDGsにも対応可能です。

 

更にCNFの市場は経済産業省の発表によると2030年までに日本国内だけで1兆円の市場に成長すると見込まれています。欧州のほうが、日本に比べ環境問題への関心が高いため、世界規模で見るとより大きな市場に成長するのではないでしょうか。

また、どんどん厳しくなる環境規制にも対応できるのではないかと期待されています。

例えば外国では、ガラス繊維樹脂の家電製品への利用規制が始まっています。理由として、廃棄時に、原料として再利用することも、燃やして熱源として利用することもできないからです。しかし、CNFで強化した樹脂であれば、どちらも可能になるのです。

林業との関係

現在、戦後復興のために植林された木たちが、伐採期を迎えており、それを活用するためにCNFが注目を集めています。CNFの需要が増えることで、使われる木も増えていくことが予想され、そうなれば新たな木を植えることができます。木が増えることで、携わる林業関係者も増加し、林業の活性化にもつながります。

このような新たな木材への需要として、起爆剤になるのではないかと期待されているのです。

CNFの特徴

CNFの一番の特徴は「軽くて強い」ことではないでしょうか。鉄鋼と比べると、重さは5分の1で、強度は5倍ほどもあるのです。

 

・弾性率がある

・熱による寸法変化率が低い

・熱伝導性が高い

・比表面積が大きい

・ガスバリア性が高い

・粘性がある

 

等もCNFの特徴です。

また、CNF水分散液(粒子が水に浮遊・懸濁している液体)の特徴としては

 

・静置時の粘度が高い

・流動時に極端に粘度が低下

・オイルや無機物が満遍なく混ざる

・均一に混ぜたものを凝集させずに乾燥できる

・保水性と光透過性を備える

 

等があります。

CNF水分散液の特徴は原料となるパルプによっても変化します。

 

  • 化学パルプを原料とした場合

 

・保水性が高い

・親水性材料との相性が良い

・製造方法により、透明度が高くなる

 

  • 機械パルプを原料とした場合

・脱水性が高い

・加工効率が良い

・疎水性材料との相性が良い

 

  • 古紙パルプを原料とした場合

・樹脂との組み合わせにより安価に補強できる

 

さまざまな特徴があり、無限の可能性を感じますね!

実際にどのような製品に?

優れた特徴を活かし、すでに多くの分野で実用化されています。

例えば、ボールペンのインク。「静置時は粘度が高く、流動時に粘度が低くなる」特徴を活かしたものが開発されました。

筆記時はインクの粘度が低下し、滑らかな筆記が可能かつ静置時・筆記後は粘度が増すため、インク漏れや筆記したインクのにじみを防ぐことができるのです。

更には食品の改良にも利用されています!

セルロースは私たちが食べている野菜等にも入っているため、安心して食べることができるのです。

和菓子には欠かせない「あんこ」。静岡県にあんこにこだわった老舗和菓子があり、あんこを更に美味しくしようと、1年かけて企業と協力し製品化に至りました。水分を保つというCNFの特性を、あんこのみずみずしさに繋げられるのではないかと考えたのです。社長曰く、類似品はあれど、保水効果やみずみずしさ、風味を保持できるものはなかったとのことです。

 

他にも美容や医薬健康、食品、フィルター部材や高ガスバリア包装部材、エレクトロニクスデバイスなど、たくさんの分野での実用化されています。

普及に向けた課題

たくさんの優れた特性があるCNFですが、既存材料と比較すると高価となってしまい、材料費を下げることが、最大の課題となっています。高価であるため、普及もなかなか進んでおらず、価格を下げるためには、大量消費の用途が必要となります。しかし、現状は少量で必要な機能を発揮する用途が主になり、大量消費には至っていません。素材メーカー側は「用途が広がれば安価に生産できる」とする一方で、製品メーカー側は「価格が下がれば材料として採用ができる」と考えており、ジレンマに陥っています。

CNFを作って触ってみよう

◆材料

・野菜

・紙(牛乳パック等)

・ストッキングやガーゼ等

 

※牛乳パックを利用する場合は、表層部分を取り除いた内側の部分を利用(パック両面が疎水加工されているため)

※紙の場合は添加剤が少ないものを利用

 

◆作り方

皮をむいた野菜を小さく刻む

牛乳トレーの中央紙、ろ紙などを小さく刻む

水とミキサーで細かくする

ストッキング・ガーゼ等で液を搾る。(搾った液が必要)

※③~④を数回繰り返す

搾った液を煮詰める→CNF溶液に

ホットプレート等に塗布し、乾燥させる→CNFフィルムに

 

◆注意点

紙を利用する際は、少し時間を置いてミキサーにかけた方が分解しやすくなります。

また、ろ紙を利用すると細かな繊維を分けやすいです。

 

繊維が細かくなると、粘度が上がるため、ミキサーの回転が悪くなった場合は、水を少しずつ足していきましょう。

ガーゼを利用する際は、目が粗いものが多いため、2枚ほど重ねることをおすすめします。

細かな繊維であればあるほど、フィルムの透明度が高くなります。

 

興味を持たれた方は、実際に作って、触れてみてはいかがでしょうか?