ファストファッション産業は第二の環境汚染産業?さまざまな問題点について解説

時に信じられないくらいに安く手に入る洋服。流行りに合わせてファストファッションを楽しむ方も多いのではないでしょうか。

しかし、ファストファッション産業は多くの闇を抱えていることをご存じでしょうか?

今回はどのような問題点があるのか、第二の環境汚染産業と呼ばれるのはなぜなのかを詳しく解説いたします。

ファストファッションとは

【ファーストフード】は「早い、安い、手軽」な食事です。

【ファストファッション】もそれになぞらえて作られた造語で、最先端の流行をとりいれつつ、低価格で楽しむことができるファッションブランドやその業態を指します。2000年代半ばから使われ始めた言葉で、2009年の新語・流行語大賞ではTOP10に選ばれました。

実は私たちがよく知るあのブランドもファストファッションです。どのようなブランドがあるのでしょうか。

身の回りのファストファッションブランド

日本だけでなく、世界中にファストファッションブランドはあり、日本にもたくさんのブランドが進出しています。

 

  • ZARA(スペイン)
  • H&M(スウェーデン)
  • Gap(アメリカ)
  • SHEIN(中国)
  • ユニクロ(日本)
  • GU(日本)
  • しまむら(日本)

 

ご存じのブランドや好きなブランドも多いのではないでしょうか?

どのブランドも女性向け・男性向けのファッションを幅広く展開しています。

歴史と構造

歴史

ファストファッションが私たちの生活に浸透したきっかけは1990年代初頭のバブル崩壊。

それまで勢いがあった高級ブランドが失速し、その枠に入るようなかたちで1990年代後半からリーズナブルな価格が売りのファストファッションブランドが目立ち始めました。

2000年代後半から本格的にブームとなり、2015年までの間に外資系ファストファッションブランドの店舗数が倍増。現在では地方の大型ショッピングモールに出店されることが多く、トレンドのファッションを地方でもリーズナブルに楽しむことができるようになりました。近年ではファストファッションブランドと高級ブランドがコラボレーションすることもあり、大きな話題に。例えばユニクロは多くのハイブランドとコラボレーションしています。半袖Tシャツが5万円ほどの価格帯のマルニや、ロゴTシャツが6万円ほどのジルサンダーなど。日本での認知度は低いもののファッションが好きであれば憧れるブランドとのコラボレーションは毎回注目を集めています。

 

このように今や幅広い年代に人気があるファストファッションブランドですが、なぜこんなにもリーズナブルに楽しむことができるのでしょうか?

構造

ファストファッションが低価格の理由は商品の製造から販売までのサイクルが大きく関わっています。このサイクルを短く、大量生産することで、価格を抑えることができるのです。

 

パリコレクションやミラノコレクションなどのモードファッション(=独創的な最先端の高級ファッション)の商品企画は流行色などのトレンドを設定するところから始まり、展示会、コレクションの発表を経て、私たちが買えるようになるまで約2年の歳月がかけられます。

 

しかしファストファッションの商品企画は、モードファッションの展示会を参考にしたり、都市部での流行を参考にしたりし、短期間で商品を製造・販売しています。

このように商品開発にかかる、時間を含めたさまざまなコストを削減することで、低価格な商品が提供できるのです。また、どのブランドもトレンドの後追いとなり、競合との差別化が難しいため、商品の入れ替えを頻繁に行うことで消費者を飽きさせないようにしています。しかし、商品の入れ替えを頻繁に行うためには、大量生産・大量販売が必要。

そしてこれが大きな問題を引き起こしてしまっているのです。

環境問題との関わり

大きな問題とは具体的にどのようなものなのか。実はファッション産業は石油産業に次ぐ第二位の環境汚染産業と言われている上に、労働・人権問題も注視されています。

まずは環境問題について詳しくみていきましょう。

水質汚染

色鮮やかな洋服は私たちをワクワクさせてくれます。

しかし、洋服を染色する過程で必要な染料が水質汚染を引き起こしているのです。世界の工場用水汚染の20%が繊維の染色などの処理に起因しているそう。(参考:UNEP

さらに環境省のデータによると、服を1着作るために、約2300リットルもの水が必要となり、これはバスタブ約11杯分となります。こういった理由で、工場周辺の地下水や河川などの水質悪化や水資源の枯渇が問題となっています。

 

更に、製造時だけではなく私たちが洋服を洗濯する際にマイクロファイバーやマイクロプラスチックが海に流れ出ているとされています。

CO2の排出

私たちが排出している二酸化炭素(CO2)のうち、約10%がファッション由来に関するものだと言われています。これは、航空業界+海運業界の排出量よりも多いそうです。

なぜそんなにもCO2を排出してしまうのかというと、下記のような理由が挙げられます。

 

  • 製造時の電力エネルギーによるもの
  • 輸送時の船・車などから排出されるもの
  • 廃棄時の焼却・埋め立てによるもの

 

CO2は温室効果ガスの一種で、地球環境にさまざまな影響を及ぼしています。

例えば、地球温暖化を始めとする気候変動異常気象など。

 

世界的に脱炭素や、カーボンニュートラルが進められている中で、大量のCO2の排出は問題視されているのです。

大量の廃棄物

環境省のデータによると、年間1人当たり約12枚の衣類が捨てられており、1回も着用していない服が25枚ほどあると言われています。

廃棄された衣類の95%は焼却・埋め立てされていますが、これは年間約48万トンにもなります。

リユース・リサイクルで再利用される量も年々増えてはいますが、その割合は3割ほどで、残りの7割はそのまま廃棄されているのです。

 

皆さんは、不要になった洋服をどのように処分されているでしょうか?

労働・人権問題との関わり

環境問題との関わりについては理解していただけたと思います。

次は労働・人権問題について詳しく解説いたします。

低賃金

現在、ファストファッションの工場はほとんどがアジアにあります。

特にバングラデシュは「世界の縫製工場」と呼ばれるほど、さまざまなアパレル工場が集まっています。お持ちの洋服にも「Made In Bangladesh」の表記があるのではないでしょうか。

 

ファストファッションは、その安さを実現するために、低コストで大量生産を行っています。

衣類の低価格を実現するためには安い労働力が求められ、賃金が安い途上国に工場が集まっているのです。

途上国では男性よりも女性の賃金は大幅に低い傾向にあります。そのため途上国の女性は安い賃金であっても「少しでも家計を支えられるなら」とそれを受け入れてしまうのです。

 

月給は6500タカ(日本円で約9000円)ほどで、肉や魚はなかなか買えないといいます。しかし、多くの工場では賃金交渉が認められず、昇給を求めてデモをした労働者約30人が逮捕された事件も。

長時間労働

大量に商品を生産するため、ほとんどの労働者が長時間労働となっています。

平均労働時間は10~12時間とも言われており、繁忙期には16~18時間に及ぶこともあるそうです。更に休日は月に1回しかない工場もあり、その環境は徐々に問題視されています。

 

しかし、このように低賃金・長時間労働であっても仕事を失うことを恐れ、労働者は意見を出せない状況なのです。

「ラナ・プラザの悲劇」

ファッション業界史上、最悪の事故をご存じでしょうか?

2013年4月にバングラデシュで起こった「ダッカ近郊ビル崩落事故」、通称「ラナ・プラザ崩壊事故」です。死者1134名、負傷者2500人以上の犠牲者を出した大惨事となりました。

 

事件が起こった商業ビル「ラナ・プラザ」は、銀行など複数の店舗の他に、27のファッションブランドの縫製工場が入っていました。そして、この事故の犠牲者の多くがその工場の労働者である女性だったのです。

 

事故の原因はずさんな安全管理。ラナ・プラザは、もともと店舗・オフィス用に建設されたビルで、工場向けではありませんでした。そのため、重機の振動・重量に耐え切れないであろうことは指摘されており、現地警察も退去を促していました。しかし、無許可で増築を繰り返した結果、事故前日に建物にひび割れがあることが見つかりました。その後、店舗や銀行は閉鎖されましたが、利益を優先したオーナーは安全のための警告を無視。さらに出勤を拒否する労働者に対し「給料を差し控える」と脅迫したため、多くの労働者は避難することもできずビルが倒壊したのです。

 

この事件について調査が進むにつれてラナ・プラザに入っていた工場がスウェットショップ(搾取工場)に分類されるものだったことが判明。

労働組合の結成も認められない劣悪な環境で、労働者が働かされている事実が明るみに出たことで業界におけるサプライチェーンの透明化が求められるようになったのです。

私たちにできること

ファストファッションがさまざまな環境問題・労働問題に繋がっていることを解説してきましたが、全てのファストファッションブランドが悪というわけではありません。

 

例えば代表的なファストファッションブランドであるH&Mでは2040年までに環境への影響を実質ゼロにするという目標を掲げ、さまざまなサステナブルな取り組みを行っています。

日本の代表的なユニクロでは人権・労働問題を防ぐため「生産パートナー向けのコードオブコンダクト(行動規範:遵守すべき基本事項)」を定め、第三者機関による監査を実施しています。

このようにファストファッションが持つさまざまな問題に対し、多くのブランドが取り組みを行っています。こうしたブランドの商品を選ぶことで、その活動を応援することに繋がります。

 

また洋服を購入する際に「なるべく長く着られるか」を考え、安いからという理由だけで購入しないようにしましょう。1着を長く着ることで、廃棄する量を減らすことができます。

「お気に入りの洋服」を「なるべく長く着る」ことを意識することで、私たち消費者も作り手も笑顔になることができます。

 

好きなファッションを楽しみながら、ひとりひとりができることを少しずつ行ってみませんか?