見えない飢餓「フードデザート」問題とは?

「フードデザート」という言葉を聞いたことがありますか?これは、健康的な食生活を維持することが困難な地域を指す言葉で、近年、特に欧米諸国で問題視されています。本記事ではフードデザートに焦点を当てて解説します。

 

 

フードデザートとは?

フードデザート(food deserts)は、 「食の砂漠」とも呼ばれるもので、新鮮な食材を手に入れることが難しい地域のことを指します。都市部の一部や過疎地域では、スーパーマーケットや農産物直売所が少なく、住民は健康的な食事を摂るための選択肢が限られています。

 

この問題は、私たちの食生活だけでなく、 健康にも大きな影響を与えます。新鮮な食材が手に入らないと、ファーストフードや加工食品に頼ることが増え、結果として 生活習慣病のリスクが高まります。

 

イギリスでは、1970年代から90年代半ばにかけて、大型スーパーが郊外に進出し、都心部にあった中小の小売店が次々と閉店しました。その結果、都心部の低所得者層は、高価で品揃えの限られた雑貨店での買い物を余儀なくされ、その影響で健康問題の増加が指摘されています。

 

アメリカでも同じような問題が発生しています。フードデザートのエリアにはファーストフード店が進出し、肥満問題が深刻化しています。生活環境が悪化するばかりではなく、 低所得者が集中する場所や雇用、教育の悪化、地域のコミュニティの希薄化など、フードデザートは様々な問題と深く関係しています。

 

 

国内の状況

フードデザート問題は、日本でも深刻化しています。日本では、空き家やシャッター通りが年々増える 地方都市の中心市街地や、高齢化が進む農山漁村、高齢者の孤立が問題となる団地地域などがフードデザートエリアとされています。

 

街の形が変わると、そこに住む人たちの生活にも変化が生じて色々な問題が生じます。特に都市部でソーシャル・キャピタルが低下するエリアでは、一人暮らしの高齢者が増えています。そうした地域では、子ども世帯や近所の人たちの支援が得られなくなり、社会からの孤立する状況を招きます。

 

被災地でもフードデザート問題が深刻で、地方の行政やボランティア団体の支援があるものの、まだまだ解決しなければならない問題は残っています。

 

また、 生鮮食品店や公共交通機関の撤退や社会保障制度の見直しなども、フードデザート問題を拡大させています。

 

このように、フードデザートは、単に買い物が不便になるという問題だけではありません。 社会的な排除を引き起こす大きな要因となり、社会格差や都市構造の変化、食育の問題などとも密接に関係します。全ての人たちが健康的な食べ物を手に入れやすいような環境を作るよう、社会全体で協力して取り組むことが重要です。

 

※ 空き家問題についてはこちらも参照ください。
「空き家問題:法律改定が切り開く新たな風景」

 

 

地域での取り組み事例

 

フードデザートの問題を解決するための取り組みも様々な地域で始まっています。地元の農家と連携して、新鮮な野菜を直接販売する移動販売車を運行する地域もあります。また、都市農業の普及により、都市部でも新鮮な食材を育てることが可能になりつつあります。

 

例えば、「移動販売車」では、以下の取り組みがあります。

 

群馬の農家と東京の消費者を繋ぐ移動販売車プロジェクト:

群馬の農家と東京の消費者を繋ぐために、新鮮な野菜を直接販売する移動販売車を運行する取り組みが実施されています。このプロジェクトは、規格外で買い取ってもらえない野菜を捨てている農家と、新鮮な野菜を食べたい東京の消費者を繋ぐことを目指しています。

 

出典:Real Gate合同会社

 

地産地消を目指す「つどや」の野菜販売:

神奈川県相模原市にある「つどや」は、地産地消に力を入れ、週5日農産物の移動販売を行っています。販売する野菜は、フードロスの削減に力を入れている「ひぐらし農園」や、地元の農家さんの野菜を直接集荷しています。規格外の野菜も取り扱うなど、食品ロスの削減にも貢献しています。

 

出典:相模原市
出典:相模湖ひぐらし農園

 

京急車両で運ぶ貨客混載販売:

京急車両を利用して、新鮮な三浦野菜を直接販売する実証実験が行われました。このプロジェクトでは、JA町田市の直売所から収穫した新鮮な野菜を京急車両に積み込み、上大岡駅まで輸送し、株式会社京急百貨店の1階改札口前特設会場で販売されました。

 

出典:KEIKYU

 

これらの事例は、地元の農家と連携して新鮮な野菜を直接販売する移動販売車が、フードデザート問題の解決に貢献しています。

 

 

まとめ

フードデザートは、見えない飢餓とも言える現象で、私たちの生活に密接に関わっています。健康的な食生活を維持することが困難な地域が増えている一方で、地域の取り組みや新たな試みにより、この問題を解決する道筋が見え始めています。

 

私たち一人ひとりが、自分の生活環境や食生活を見直し、地元の農産物を利用するなどの小さな行動を始めることで、フードデザート問題の解決に繋がるかもしれません。また、地域全体で協力し、全ての人が健康的な食べ物を手に入れやすい環境を作ることが求められています。

 

フードデザート問題は、私たちの生活を豊かにするための重要な課題です。これからも、この問題について考え続け、行動を起こしていきましょう。