未来のエネルギー源 ~ 水素燃料電池 ~
燃料電池は、その効率の高さと環境に優しい特性から、持続可能なエネルギー源として注目されています。本記事では、燃料電池の中で最も注目される水素燃料電池を中心に解説します。
燃料電池の仕組み
燃料電池は、エネルギー変換装置で、水素と酸素が結合して電気を生成する過程を通じ、化学的エネルギーを電気エネルギーに変換します。この反応は、燃料と酸素が提供される限り、持続的に電力を供給することが可能です。
燃料電池の種類
燃料電池の種類は主に4つあります。
- 固体高分子形燃料電池(PEFC):
発電効率は30~40%で、70〜90℃と運転温度が低いため、自動車用や家庭用の燃料電池として実用化されています。
- 固体酸化物形燃料電池(SOFC):
発電効率は40~65%と高くなりますが、700~1,000℃と動作温度が高温のため、火火力発電所などの大規模な電力設備の代替として期待される一方で、家庭向けの燃料電池としても実用化されています。
- 溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC):
発電効率は約40~50%で、600~700℃の動作温度となり、火力発電所等の高出力の発電設備の代替としての用途が期待されています。
- りん酸形燃料電池(PAFC):
発電効率は35〜42%で、180〜200℃前後の動作温度となり、工場や事業所のコージェネレーション発電設備として実用化されています。
上記の燃料電池はすべて水素を燃焼として使用します。それぞれの燃料電池は、使用される電解質や動作温度などにより、特性や適用分野が異なります。
なぜ、水素燃料電池が注目されるのか
水素燃料電池が注目される理由は、その独特な特性と 持続可能なエネルギー源としての可能性によるものです。その主な理由は以下の通りです。
- 環境への影響が少ない:
水素燃料電池の最大の利点の一つは、環境への影響が非常に小さいことです。水素と酸素の化学反応により発電するため、 二酸化炭素などの温室効果ガスを排出しません。これは、地球温暖化問題に対する重要な解決策となり得ます。
- エネルギー効率が高い:
燃料電池は、化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換するため、 エネルギー効率が非常に高いです。これは、エネルギー消費を抑えるための重要な要素であり、エネルギー資源の有効活用につながります。
- 多様なエネルギー源から水素を生成可能:
水素は、 さまざまなエネルギー源から生成することが可能です。これにより、エネルギー供給の安定性が向上し、エネルギー資源の多様性が保たれます。
- 自動車への応用:
水素燃料電池は、 自動車への応用が可能であり、そのエコ性能から「究極のエコカー」とも称されています。これは、都市部の大気汚染問題の解決に寄与する可能性があります。
- 貯蔵が効く:
水素は、 エネルギーとして貯蔵することが可能です。これにより、エネルギー供給の安定性がさらに向上します。
以上の理由から、水素燃料電池は、持続可能な社会を実現するための重要な技術として注目されています。
国内での燃料電池の導入状況
水素燃料電池は、様々な形で利用されています。以下に、その導入事例を紹介します。
- JR東海は、水素を動力とした鉄道車両開発の進展を公表しています。この取り組みでは、山間部の路線も含め、出力を300キロワット以上に向上させ、鉄道車両としての実用化を目指しています。
- コマツは、米自動車大手のゼネラル・モーターズ(GM)と提携し、主力の大型ダンプトラック向けの「水素燃料電池」を開発する計画を発表しました。
- NEDOは、「NEDO水素・燃料電池成果報告会2023」を開催し、水素燃料電池分野におけるNEDOプロジェクトの実施状況、成果等を広く一般に公開しました。
- パナソニックは、純水素型燃料電池と太陽電池を組み合わせた自家発電により、事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで賄う「RE100ソリューション」実証施設「H2 KIBOU FIELD」を稼働しました。
- ブラザー工業・瑞穂工場では、燃料電池工場の電力を水素を使って賄う自家発電設備が導入されています。
これらの事例から、水素燃料電池は、鉄道、大型ダンプトラック、工場など、さまざまな分野での活用が進んでいることがわかります。
また、これらの取り組みは、2050年のカーボンニュートラルの実現に向けた重要なステップとなっています。今後も、水素燃料電池の技術開発と普及が進むことで、さらなるエネルギー効率の向上と環境負荷の低減が期待されます。
※カーボンニュートラル、太陽電池については、こちらもご参照ください。
「~持続可能な未来への鍵~ カーボンクレジットとは?」
「進化する太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」とは?」
海外での燃料電池の導入状況
海外における水素燃料電池の導入状況については、各国で様々な取り組みが進められています。特にヨーロッパでは、新たなエネルギー源として水素の活用に注目が集まっています。二酸化炭素(CO2)を排出しないエネルギーである水素は、 特に製鉄業や航空・海運業などにおいて、製品の低炭素化または脱炭素化を可能にするエネルギーとして期待が寄せられています。
具体的には、ドイツでは水素の活用に向けて実施されている実証プロジェクトや、主要国・地域の水素戦略について説明されています。また、フランスでは、2020年9月に国家水素戦略を策定し、2030年までに6.5GWの「脱炭素水素」(グリーン水素)生産設備の設置と600万トンのCO2排出量の削減を目指しています。
日本と海外の導入状況の違い
日本と海外では、水素燃料電池の導入方法に違いが見られます。具体的には、 日本は燃料電池車(FCV)や家庭用燃料電池を普及させ水素の利用を促す一方で、欧州は運輸部門の脱炭素化をFCVではなく電気自動車(EV)主体で実現しようとしています。また、米国ではカリフォルニア州が大型バス、トラックでの水素利用を進めています。
さらに、日本では水素の供給コストを化石燃料と同等程度の水準まで低減させ、供給量の引上げを目指しています。しかし、水素を燃料として使っても二酸化炭素(CO2)を排出しない一方で、 製造や輸送にかかるコストが高く、利用が進んでいないという課題があります。
以上のように、各国での水素燃料電池の導入状況や日本との違いは、エネルギー政策や技術開発の進行度、そしてそれぞれの国や地域の特性によって大きく異なります。
水素燃料の導入における課題
このように期待が高まる水素燃料電池ですが、その普及にはいくつかの課題が存在します。
- コスト:
現在、水素ガスの多くは天然ガスから製造されており、燃料として利用するのであれば、 天然ガスをそのまま利用した方がコストが低く、無駄がありません。また、水素ステーションの設置には高額な初期費用がかかり、その回収や利益の確保が難しいため、なかなか整備が進んでいないという現状があります。
- 技術的な課題:
燃料電池の普及にはコストや耐久性など、 技術面での課題があります。また、現時点では実証段階の技術も多く、技術開発の進展によるコストダウンがどの程度見込めるのかについても不透明な点が多いです。
- インフラの整備:
水素をエネルギーとして利用するためには、 適切なインフラの整備が必要です。しかし、現在のところ、全国的にまだ水素ステーションが普及していないのが現状です。
これらの要素が組み合わさることで、水素燃料電池の普及が日本で進んでいない状況が生じています。しかし、これらの課題を解決するための取り組みが進められており、今後の技術開発や政策の進展により、状況は変わる可能性があります。
まとめ
燃料電池技術の主役である水素燃料電池は、環境への影響が少なく、高いエネルギー効率を持ち、多くの分野で利用されています。
しかし、コストや技術的な課題、インフラ整備の必要性などが普及を妨げています。各国ではこれらの課題を克服するための取り組みが進められており、特にヨーロッパでは新たなエネルギー源として水素の活用に注目が集まっています。
これらの取り組みは、2050年のカーボンニュートラルの実現に向けた重要なステップとなっています。今後も、水素燃料電池の技術開発と普及が進むことで、さらなるエネルギー効率の向上と環境負荷の低減が期待されます。
出典:
環境省: 「水素」ってどんなエネルギー?
経済産業省 資源エネルギー庁:
「水素エネルギー」は何がどのようにすごいのか / あらためて知る「燃料電池」
NEDO: NEDO水素・燃料電池成果報告会2023」開催報告
日本経済新聞: カーボンゼロ特集
読売新聞オンライン: 経済ニュース
パナソニック: 純水素型燃料電池実証施設 / RE100化ソリューション
ブラザー工業株式会社: 導入事例一覧
燃料電池開発情報センター: 燃料電池とは?
トヨタ: MIRAIと水素のFAQ / 活用事例
日本貿易振興機構: 地域・分析レポート