【簡単に解説】GHGプロトコルの概要
「カーボンニュートラル」や「RE100」、「SDGs」などといった言葉を耳にする機会が増えたと感じる方は多いのではないかと思います。深刻化する環境問題に対して、国や企業、自治体だけではなく、個人個人が関心を集めている近年ですが、みなさんは「GHGプロトコル」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。ここでは、さまざまなイニシアチブに関係している「GHGプロトコル」について、簡単に解説をしていきます。
GHGプロトコルってなに?
GHGプロトコルは、温室効果ガス(Greenhouse Gas=GHG)排出量の算定と報告の基準のことであり、世界共通のものさしとなっています。
背景
1998年に、地球の環境と開発の問題に関する政策研究と技術的支援を行う独立した機関である、「世界資源研究所」(World Resources Institute=WRI)と、持続可能な開発を目指す企業約200社のCEO連合である「世界経済人会議」(World Business Council for Sustainable Development=WBCSD)が主導となり、政府機関、企業、NGO等も参加している国際的な組織のGHGプロトコルイニシアチブが発足しました。
GHGプロトコルイニシアチブは、オープンで包括的なプロセスを通じて、国際的に認められた温室効果ガス排出量の算定と報告の基準を開発し、利用の促進を図ることを目的としています。
仕組み
ここからはもう少し深掘りしていきましょう。どういった算定方法をとっているのか、基礎的な考え方を簡単に説明します。
サプライチェーン排出量について
GHGプロトコルにおいては、一つの企業で排出された温室効果ガス排出量ではなく、サプライチェーン排出量を重要視しています。では、そもそもサプライチェーンとはなんでしょうか。
原材料や部品の調達、生産、物流、販売、廃棄の一連の流れ、「供給の連鎖」のことを指します。なので、サプライチェーン排出量は自社の温室効果ガス排出量(直接排出)だけではなく、上流・下流を含めた他の企業の温室効果ガス排出量(間接排出)も含まれることになります。
重要性・メリットについては、後述しますが、「自社」だけでなく「組織のサプライチェーン全体」への算定範囲を拡大していることが背景となり、サプライチェーン排出量が重要視されるようになりました。
※「上流」の定義:原則として購入した製品やサービスに関する活動
※「下流」の定義:原則として販売した製品やサービスに関する活動
Scopeについて
GHGプロトコルにおいては、組織の温室効果ガス排出量を把握するために「Scope」という考え方があり、「サプライチェーン排出量=Scope1排出量+Scope2排出量+Scope3排出量」で計算されます。
Scope1:直接排出量
Scope1では、事業者が所有または管理している排出源から発生する温室効果ガスの排出量を算定します。例えば、所有や管理をしているボイラー、炉、車両、その他における燃焼からの排出、所有や管理をしている加工設備での化学品の生造からの排出などが含まれます。
Scope2:間接排出量
Scope2 では、事業者が消費する購入電力の発電に伴う温室効果ガスの排出量を算定しています。購入電力とは、購入したまたは事業者の組織境界内に持ち込まれた電力のことです。そのため、事業者が省エネ技術に投資したり、再生可能エネルギー100%の電力を購入したりといった方法で削減できます。
Scope3:その他の間接排出量
Scope3では、事業者活動の結果として生じるが、その事業者が所有や管理をしていない排出源から発生する温室効果ガスの排出量を算定しています。ただし、Scope2を除いた排出となります。例えば、購入原材料の抽出や生産、購入燃料の輸送、及び販売した製品やサービスの使用などが該当します。
Scope3は、さらに15のカテゴリに分類されます。
区分 | カテゴリ | ||
Scope1 | 直接排出 | ||
Scope2 | 間接排出 | ||
Scope3 | 上流 | 1 | 購入した製品・サービス |
2 | 資本財 | ||
3 | Scope1,2に含まれない燃料及びエネルギー関連活動 | ||
4 | 輸送、配送(上流) | ||
5 | 事業から出る廃棄物 | ||
6 | 出張 | ||
7 | 雇用者の通勤 | ||
8 | リース資産(上流) | ||
下流 | 9 | 輸送、配送(下流) | |
10 | 販売した製品の加工 | ||
11 | 販売した製品の使用 | ||
12 | 販売した製品の廃棄 | ||
13 | リース資産(下流) | ||
14 | フランチャイズ | ||
15 | 投資 |
以上のように、GHGプロトコルでは企業のサプライチェーンにおける排出量の算定や報告の方法を示す「GHGプロトコルScope3算定報告基準(Corporate Value Chain (Scope3) Accounting and Reporting Standard)」が策定されています。
日本では、「GHGプロトコルScope3算定報告基準(Corporate Value Chain (Scope3) Accounting and Reporting Standard)」に整合したガイドラインとして、環境省が「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」を作成しています。さらに詳しく知りたい方は確認してみると、より細かい基準を知ることができます。
重要性・メリット
ここからは、サプライチェーン排出量を算定するメリットについてまとめました。
サプライチェーン排出量算定は、自社の排出量だけでなく事業活動にかかわる全ての排出量を算定することにより、企業活動全体を把握、管理することが目的ですが、以下のような効果も期待できます。
削減対象の特定・他事業者との連携(環境へのメリット)
サプライチェーン排出量を把握することで、排出量の多い部分や、削減ポテンシャルの大きい部分を明確にでき、優先的に削減すべき対象を特定することができます。
また、サプライチェーン排出量という視点を導入することで、自社だけではできないような削減対策を他社と連携することが必要となります。さらに、サプライチェーンを構成する事業者や消費者への働きかけにより、理解の促進や削減のチャンスを広げることになります。
情報の開示=ビジネスチャンス(企業のメリット)
近年、世界での環境への関心が高まるとともに、企業の情報開示の一環として、環境への取り組みを公表する企業が増加しています。サプライチェーン排出量を算定し、公表することにより、説明責任を果たすとともに環境対応企業としての企業価値を明確にし、社会的信頼性を向上させることができます。そのため、サプライチェーン排出量の把握はビジネスチャンスとなると言ってもいいでしょう。
また、SDGsやESG投資などの動きが活発となっている今日、環境の側面だけではなく、経済・リスクの側面からもサプライチェーン排出量の算定が重要になってきています。
さまざまなイニシアチブとの関連性
冒頭でも記述したように、GHGプロトコルは温室効果ガス(Greenhouse Gas=GHG)排出量の算定と報告の基準です。では、どういったイニシアチブでこの基準が使われているのか、簡単に挙げていきましょう。
RE100との関連性
RE100とは、「企業の電力を100%再生可能エネルギーにする」という目標に取組むグローバルイニシアチブです。RE100は「地球の気温上昇を2度以内に抑える」という目標において、企業ができる行動として生まれました。RE100の温室効果ガス排出量の算定・報告は、GHGプロトコルに基づいています。
しかし、日本においては、地球温暖化対策の推進に関する法律に基づく制度の下、温室効果ガス排出量の算定・報告を実施していますが、果たしてそれが国際的に評価を得るのに足るか、十分な情報が整理・提供されていない状況でした。
そこで、GHGプロトコルに適合した温室効果ガス排出量の算定や再生可能エネルギーとしての価値の取得・主張をする具体的な方法をまとめた「国際的な気候変動イニシアチブへの対応に関するガイダンス ~日本において再エネを活用する企業のためのスコープ2ガイダンスへの対応~」を策定・公表しました。
※RE100について詳しく知りたい方はコチラ
SBTとの関連性
SBTとはWe Mean Businessという非営利団体による、温室効果ガスを削減するために作られたイニシアチブです。パリ協定で決められた「地球温暖化による気温上昇を2℃未満に制限しよう」という目標を実現するために、科学的根拠に基づいて削減目標を設定することを促しています。
SBTに参加するためには、温室効果ガスの排出量削減目標を設定し、報告することが必要です。
具体的には、Scope1、2排出量を2℃未満の水準まで削減する目標を、Scope3については、具体的な数値ではなく、「野心的」な削減目標の設定を要求しています。ただし、サプライチェーン排出量のうちScope3排出量が40%以上を占める場合、Scope3の⽬標設定が必要となります。
※SBTについて詳しく知りたい方はコチラ
さいごに
いかがだったでしょうか。GHGプロトコルに関して詳しく調べていくと、カテゴリが分かれているために、難しいと感じる方も多いのではないでしょうか。サプライチェーン排出量を把握することは、コストも時間もかかってきてしまいますが、環境問題に立ち向かっていくには、さらに重要な内容になってきます。重要性やメリットを再度確認して、把握に向けて導入してみてはいかがでしょうか。