【わかりやすい】生物多様性を理解しよう
最近はSDGsによって環境問題に再度注目が集まっていますが、生物多様性について知っている人はどれくらいいるでしょうか。今回は生物多様性とは何か?国が挙げる課題や私たちができる取り組みを解説いたします。
生物多様性とは
生物多様性とは、動物、植物、そして菌類などの微生物まですべての生物の間に違いがあり、バランスを保っている状態のことをいいます。私たちの住む地球上には、進化により環境に適応してきた3000万種もの生物が生息していると言われています。
SDGsおいても、ゴール14「海の豊かさを守ろう」および15「陸の豊かさも守ろう」にて生物多様性やその価値の持続的な利用について触れられています。
生物多様性は3つのレベルに分かれており、生態系の多様性・種の多様性・遺伝子の多様性があります。
生態系の多様性
生態系の多様性とは、干潟、サンゴ礁、森林、湿原、河川など様々なタイプの生態系がその場所、その地域の特色を反映した多様な生態系が成立しています。これを生態系の多様性と言います。
種の多様性
種の多様性とは動物や植物、細菌などそれぞれの種類が生息していることをいいます。生物の種類は世界で約175万種が認知されており、未確認の生物も含めると地球上には3,000万種の生物が存在していると考えられています。
遺伝子の多様性
遺伝子の多様性とは同じ種であっても固体や個体群の間に遺伝子レベルで違いがあることをいいます。例えば、ヒトは体の大きさや肌の色、顔の形など違いがあります。それは個人の遺伝子が他人の遺伝子と異なっているためです。これが遺伝子の多様性です。
生物にはそれぞれ違いがあり、様々な場所で生きています。その多様な生物によって私たちの衣食住は維持されています。そのため、生物多様性を保全していくことはとても大切なことです。
失われる生物多様性
1975年から毎年4万種が絶滅していると言われています。このペースで生物が絶滅すると、25~30年後には地球上の全生物のうち、4分の1が失われる計算になります。
なぜこんなにも多くの生物が絶滅してしまうのでしょうか。
開拓による影響
新しく建物をたてる際に森林伐採をしたり、埋立地にしたり、今ある自然を壊すことがあります。木がなくなることで木に住む昆虫が生活する場所を奪われ、それを食す動物の場所が奪われます。生態系の変化によりその場所の生物は消えることになります。
例)メキシコハジシロキツツキ
メキシコの西部の山脈一帯に広く生息していました。繁殖するために必要不可欠な大木が開拓による森林伐採により減少し、1950年代から激減。目撃例が一切なくなった2003年に絶滅したとされています。
外来種による影響
異国の土地から輸入された動植物は種が豊富にみえる一方で、大きな脅威となっています。それは外来種が在来種の住処を奪ったり、在来種を食べつくしたりしてしまうためです。
明治以降、多くの動植物がペットなどの目的で輸入された結果、現在日本の野外に生息する外来種は2000種にのぼるとされています。
例)小笠原諸島におけるグリーンアノール
グリーンアノールは小型のトカゲで、米軍の物資輸送への随伴などで小笠原諸島に持ち込まれたとされています。昆虫を主食とし、オガサワライトトンボなどの小笠原諸島固有の昆虫何種かを絶滅もしくはほぼ絶滅にまで追い込んでしまったそうです。
里山の変化による影響
薪や山菜の採取などに利用される里山は、適度に人の手が加わっていることで生態系のつり合いがとれています。しかし近年、里山を利用する人が減少し、今までの生態系が保てなくなっています。環境省によると国内で植物の絶滅危惧種が最も集中する地域は、里山です。
例)オオムラサキ
里山の豊かさを物語る蝶とも言われるオオムラサキ。かつては日本全国どこでも見られたため「国蝶」とされています。里山の環境の変化に伴い、準絶滅危惧種になるまで数を減らしてしまっています。現在、多くの地域で保護活動がされています。
地球温暖化による影響
地球の平均気温が1.5~2.5度上昇することで20~30%の種が絶滅の危機に近づくといわれています。気温上昇の直接的な被害の他にも強い台風により木々の攪乱が起きたり、海水温の上昇によりサンゴ礁やプランクトンに悪影響が起きたりしています。
絶滅危惧種についてより詳しい内容はこちら。
生物多様性を守るための仕組み
生態系の変化により、生き物が独自に遺伝子を変革し新たな種が生まれることもあるため生態系が変わることが悪いというわけではありません。しかし近年は急激に変わりすぎています。今の生活を続けるためにも生物多様性を守る必要があります。
国が認識する課題
1.生物多様性に関する理解と行動
2022年7月の内閣府世論調査では「生物多様性」の意味を知っていると回答した人が29.4%、言葉を聞いたことがあると回答した人が43.2%、聞いたこともなかった人26.5%でした。
2012年の調査では「生物多様性」の意味を知っていると回答した人が19%、言葉を聞いたことがあると回答した人が56%だったため、認知度は上がっていると言えますが、まだまだ認知度が低いのが現状です。生物多様性について知っている人を増やすことが、大きな一歩と言えます。
出典 内閣府
2.担い手と連携の確保
生物多様性の保全に関して各地で働きはありますが、個別で動いており全国的な横の繋がりがないことや仕組み作りがないことが課題となっています。また、生物多様性の保全は長期的な取り組みを行う必要があるのに対して後任がいないことも大きな課題です。
3.生態系サービスでつながる「自然共生圏」の認識
現在はエネルギーや物資の生産・流通が1つに集中したシステムですが、東日本大震災により脆弱性が発覚しました。そこで今後は地産地消のシステムを作り、循環させることが課題となっています。また、それに伴い地域での連携や交流を深めていくことも今後の課題といえます。
4.人口減少等を踏まえた国土の保全管理
日本の将来推計人口は、2060年には8,674万人になると予測されているため、土地のあり方を再構築する必要があります。自然の力に任せるべきか、土地を保全するべきかなど、場所によってあるべき姿を考えておくことが課題となっています。
5.科学的知見の充実
科学的に生物多様性の状態が十分に把握されていないことが課題です。それを解決するためには国、地方自治体、研究機関、博物館、NGO・NPO、専門家の調査結果をお互いに使いやすい仕組みが必要となります。そして、各データを基に具体的な対策をとれるようにすることが重要です。
私たちができること
前項の国の課題をみて自分は何をしたらいいのか?分からなくなってしまうかもしれません。まずは難しく考えず、できることから始めましょう。
「MY行動宣言」というものを聞いたことがありますか?環境省が提唱している子どもにも分かりやすい5つのアクションのことです。生物多様性を守り、繋げていくために私たちにできることを宣言したものになります。
1.たべよう 地元でとれたものを食べ、旬のものを味わいます。
地元で採れたものを食べることで地域の食材に関心を持ちます。いわゆる“地産地消”。地域の環境や地域の食文化を知るきっかけとなります。また、輸送コストがかからないためフードマイレージにもなります。
2.ふれよう 自然の中へ出かけ、動物園、水族館や植物園などを訪ね、自然や生きものにふれます。
自然を体験することで生物多様性の概念が無意識のうちに身に付きます。自然と触れ合うことで自然の不思議を考えたり、面白さ感じたりして生物多様性の理解を深めることができます。
3.つたえよう 自然の素晴らしさや季節の移ろいを感じて、写真や絵、文章などで伝えます。
自然で体験したことを文字や絵に表すことで興味が深まります。この生き物はどんな色だったか?どんな形だったか?をかくことで、より一層理解することができます。
4.まもろう 生きものや自然、人や文化との「つながり」を守るため、地域や全国の活動に参加します。
地域によって違った文化があり、違った土地の作りをしています。1つの場所に捉われず、様々な場所へ出向いて繋がりを実感することで生物多様性の保護を広めることができます。
5.えらぼう エコラベルなどが付いた環境に優しい商品を選んで買います。
生物多様性のことを考えて作られた商品・サービスを利用することで、生物多様性を守ることに繋がります。安いから買うのではなく、エコだから買うという考え方を私たち消費者が持たなければいけません。そして、その考え方が当たり前の社会を作る必要があります。
出典 環境省
生物多様性の認知度は全体でみるとまだまだ低い状況です。たくさんの人が生物多様性を理解し、共存していく意思を持つことがとても大切です。
そして、「MY行動宣言」から実際に行動に起こして皆さんで生物多様性を守っていきましょう。