~持続可能な未来への鍵~ カーボンクレジットとは?
2020年10月 国会において、2050年までにカーボンニュートラルを目標とする「2050年カーボンニュートラル宣言」が発表されました。以降、「カーボンクレジット」に対する注目度は高まっています。2023年10月には、東京証券取引所でもカーボンクレジット市場が開始され、登録企業は既に188社※に上っていることからも関心の高さが伺えます。
持続可能な社会実現に向け、期待されるカーボンクレジットについて本記事では 基本から なぜカーボンクレジットに大きな期待が寄せられているのかを分かりやすく紹介しいていきます。
※出展:JPX(日本取引グループ)
カーボンクレジットとは
カーボンクレジットの基本
カーボンクレジットは、温室効果ガス(GHG)の排出削減量や吸収量をクレジットとして発行し、市場での売買を可能にする仕組みです。
企業がGHGの排出量を減少させたり 森林づくりなどでGHGを吸収・吸着した削減効果をクレジット(証書)として発行し、証券のように売買できる仕組みとなります。
これにより、GHGを削減した企業(創出者)は、その削減実績に応じたクレジットを発行し、市場で販売することができるようになります。
逆に、GHGの削減が難しい企業は、これらのクレジットを購入して、自社の排出を相殺することができるようになります。
つまり、取り組みをしても思うように排出量を減らすことが難しい企業は、カーボンクレジットにより、自社の排出量(またはその一部)を相殺する機会を得ることができるということです。
カーボンクレジットの制度
カーボンクレジットの取引では、「ベースライン&クレジット」と「キャップ&トレード」の異なる2種の方式が採用されています。
「ベースライン&クレジット」制度は、GHGの排出削減量に対して取引する仕組みです。
例えば、工場の設備をよりエネルギー効率の良い機器に替えた場合以前の機器を継続使用した場合の排出見込量と、新しい機器の排出量との差分がクレジットとなります。
同様に、森林を管理する取り組みなどによる吸収で得た差分もクレジットとなります。
「キャップ&トレード」制度は、企業にGHGの排出枠(キャップ)を設定することで、余剰排出量や不足排出量に対する枠を取引する仕組みです。
これは、実際の排出量が排出枠より少なかった場合、その差分をクレジットとして販売します。
排出枠内に収めることができなかった企業は、このクレジットを購入することで、排出枠の上限を増やすことができます。
カーボンクレジットの種類
カーボンクレジットは、大別すると国連や政府を主導とするものと、NGOや民間企業を主導とするボランタリークレジットと呼ばれるものとがあります。
国連主導のものには、京都議定書に基づく国際的な取引制度である「京都メカニズムクレジット」や先進国と開発途上国との二国間で行うJCM(Joint Crediting Mechanism)などがあります。
政府主導のものとしては、2013年に政府認証により導入された「Jクレジット」が挙げられます。J-クレジットは、国が企業や組織のGHGの排出削減量を証明し、国内で取引するためのものです。
民間主導(ボランタリークレジット)のものについては、アメリカの民間団体が設立し、世界で最も流通しているVCS(Verified Carbon Standard)やWWFをはじめとする国際的な環境NGOが設立し 持続可能な開発に焦点を当てたGold Standardなどがあります。
カーボンクレジットと企業の関係
カーボンクレジットは、企業にとって環境への貢献を実現すると共に設備の改善や新技術の導入などあらたなビジネスチャンスにより、収益の増加を目指すこができる仕組みです。
以下は、カーボンクレジットの主なメリットと企業に対する影響です。
クレジット創出者(販売側)
・市場での取引によりクレジットの売却益が得られる
・売却益を活用した設備投資等により、追加クレジットの創出が可能
・脱炭素経営への取り組みが強調され、社会的信頼性の向上につながる
創出者となった企業は、売却益を設備などに投資した場合、さらなるGHGの削減が見込めます。こうした取り組みは、脱炭素経営としての大きなアピールポイントとなり、社会的な信頼性の向上につながり顧客や投資家からの評価も高まります。
クレジット購入者
・GHGの削減が難しい企業も、クレジットを購入することで削減実績を作ることが可能
・購入したクレジットに応じ自社のGHGの排出量を相殺することが可能
・脱炭素経営への取り組みにより、企業の社会的責任としての評価向上につながる
カーボンクレジットの課題
気候変動に対する取り組みを大きく後押しする役目を担うカーボンクレジットですが、同時に緩和措置のリスクなどいくつかの課題も抱えています。
主なものとしては以下が挙げられます。
・削減実績を評価するための算定基準が不透明
・市場価格の変動によるリスク
・クレジット依存によるGHG削減対策の減速
GHGの排出削減や吸収を評価するための算定基準が明確化されてないため、クレジットの信頼性が低下し、市場の透明性が損なわれる危険があります。GHGの排出量を算出する上で、その精度が重要となります。
しかし、排出量や価格の設定が不透明であるため、クレジットの信頼性が低下し市場での透明性が損なわれる恐れがある他、カーボンクレジット市場は価格の変動が激しいため企業の戦略策定に影響を及ぼす可能性があります。
また、カーボンクレジットを購入することで排出量を相殺することができるため、本来のGHGの削減活動を緩和しクレジットへの依存が高くなるといったことも懸念されています。
ブロックチェーンによる効率化
ブロックチェーン技術は、持続可能な未来の概念において特にカーボンクレジット市場において重要な役割を果たしています。ブロックチェーンは、分散型台帳技術で、情報の透明性、信頼性、セキュリティを提供するため、カーボンクレジットの取引履歴や排出量データを改ざん不可能かつ透明に記録できます。この技術の導入により、カーボンクレジットの信頼性が向上し、市場全体の透明性が確保され、持続可能な環境への貢献がより実現可能となります。
まとめ
カーボンクレジットは、気候変動への対抗と持続可能な未来の構築において重要な仕組みです。
企業は排出削減の実績をカーボンクレジットとして発行し、それを市場で売却することで経済的な利益が得られます。これは脱炭素経営の一環として顧客と投資家に強力なアピールポイントとなり、企業の社会的評価を向上させます。
同時に、排出削減が難しい企業も、カーボンクレジットを購入することで自社の排出量を相殺でき、気候変動への貢献を実現します。
一方で、カーボンクレジットにはいくつかの課題も存在します。例えば、排出量の算定基準が透明性に欠けたり、カーボンクレジットに依存した脱炭素活動の停滞が懸念されます。
今後、算出基準の透明性の向上など制度の改良が不可欠であり、これらの課題に対処することでカーボンクレジットはさらに効果的な気候変動対策の一翼を担う存在となるでしょう。
※脱炭素活動についてはこちらも参照ください。
「未来のエネルギー源 ~ 水素燃料電池 ~」
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